No.1 ただただ歩く
ただただ歩くと隙間風がやってきて、書くことが運ばれてきます。
歩くのは、退屈でしょうか。電車や車が当たり前の世の中です。10分歩く距離でも、メンドウだと言われてしまいます。
歩くとシンドイでしょう。歩くことは運動です。楽しくないです。
でも僕は、楽しいと思っています。
例えば、夕方頃、近所を散歩します。
住宅街です。人が歩いています。猫がいました。電柱が何本もあります。家から子どもの声が聞こえます。
コンクリートから土砂の道に変わりました。ジャリジャリとした足音です。石を蹴ったようです。溝に落ちた音がします。排水が壁から流れています。
誰かがインターホンを押しました。会話らしい会話は聞こえてこないです。
静かでした。ぼーっとします。右足が右に出て、左足が左にでていたはずでした。今はどちらの足が出ているのか。両方一緒に出ているのではないか。一本足の自分。
歩いていると、だんだん静かになります。自分だけの周りに、薄い膜ができます。
自分を、いたわります。妙な気持ちよさが漂います。
まるで、先ほどまで微かに寝息を立てていた感じ。これがただただ歩くことです。
歩いた後は、その寝息を思い出してください。か細い小言を書き出してみてください。そこに、隙間風がやってきているはずです。