【短話】月光浴する靴
午前0時。家の玄関は静かです。
そこにひっそりと、月明かりが。
ドアの窓から誰に言われずとも。
そっと、靴箱の隙に差し込んで。
靴箱から、ガタガタガタガタ音がする。
磁石でくっつけられた扉が揺れていて。
ちょっと隙間が空いたらまた閉じつつ。
ゆらっとゆらっと、紐がぶら下がって。
ゴロンと落ちた。
一つのかたまり。
びたっと落ちた。
二本のくつひも。
それは、ほこりをかぶった靴でした。
ちょっとかびくさい、忘れ物でした。
だってずっと、長く履いてきたもの。
だってずっと、しまわれていたもの。
その靴は今、月の光にあたりたい。
日に当たらないから、月を代わりに。
あの足で、履いてくれることを祈って。
その穴に、月をまるごといれてしまって。