1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

【短話】塾講師

今日も生徒は一人。 俺は教室入る。 だから机は一つ。 椅子も一つ。 なのに黒板はだだっ広い。 俺が教える時は、その人の知る範囲でしか教えない。 こんな黒板、必要ないのだ。 自分の両手を広げたぐらいの幅の黒板でいい。 そこに、チョーク一本だけでいい…

【短話】喫茶店のトイレ

行きつけの喫茶店には、トイレがあった。 けれど和式。 試しに男女両方を確かめてみたが、ともに和式だった。 和式の便所というのは最初は億劫であるが、実際試してみると意外、あのしゃがみ込む姿勢が楽だったりする。 今椅子に座ってこの文章を執筆してい…

【短話】雑草

今日も俺は、悪いことをしにいく。 近くの公園だ。 そこで俺は、雑草を踏むのである。 いや、踏み付けるのである。 そして、その足跡がどれくらいくっきり残ったかの程度で、今日の点数をつけるのである。 雨の日の翌日であれば、よく跡が付くので、俺は雨が…

【短話】雰囲気販売

「お会計でお待ちのお客様どうぞ!」 明るい声が、店内に響き渡る。列が並ぶ。 「初恋の雰囲気が一点で、二千九百四十円になります。カードでよろしいですね。」「港の雰囲気とカレー屋の雰囲気の二点で、四千七百六十八円になります。現金ですね。」 ここで…

【短話】蜘蛛

今日もいい天気。 そう思って移動していると、急に手足が動かなくなった。 進まない。進まない進まない。焦れば焦るほど、動けなくなっていくのがわかった。 けれど、見えている視界はまったく青い空のままなのである。 すると突然、黒い影が身体の周りを動…

【短話】カレーパン

狭い路地。僕はナイフを突きつけられていた。 別に僕は、大して悪いことをしてない。 ただ、ちょっとコンビニで物を盗んだだけだ。 それが今、こういう事態になっている。 男は、マスクをして、黒いハット帽を被って、何やら話しかけている。 でも、口がもぐ…

【短話】運転

雨の中、男は運転していた。 ふてぶてした顔で、隣に座っている者も、どこをみるあてもないようにいた。 ワイパーを一番早くに設定した。 それくらい、正面が雨ざらしになるのが早かった。 ワイパーは、雨を避けているのか集めているのか分からないぐらいだ…

【短話】花火のまつり

しかし、こんなに蒸し暑いから、海の上だとマシだと思ったのに、この気温じゃたいして変わんねぇ。 そう思いながら、祭り用の花火を準備をしていた。 少し離れた港の方をみると、まだ三時間前なのにくる人はくるし、車もさっきより増えていた。 難儀だなぁと…

【短話】海の人々

夜明け。 真っ暗だった静けさに、一筋の音が切り込む。 その在処を隠すかのように、太陽が引っ張り出される。 残響は海に忍び込み、新しい生命を誕生させる。波だ。 波が立ち上がる。 一度に、次々と、小さいものから大きいものまで。 白い衣を羽織り、青い…

【短話】外

やっとだやっと。 やっと家から出てこれた。 外も真っ暗、あんまり家と変わんない。 あー。意外と遠いな。 まあちょっとぐらい歩いてく。 それにしても、あっ君とまー君は元気かな。 どこら辺にいるのかな。まあまた会えたらいいね。 さてさて、着きました。…

【短話】河沿い

光が通る。 予兆はあった。 狭い道を、走ってくる音。 バイクかと思ったが、それは車だった。 車は視線の少しいった先でとまる。 ドアが開き、運転席から人が出てくる。しばらくこちらの河を眺めた後、右左と、何かを探す。 階段だ。 あいつはこちらに降りよ…

【短話】回復しない爪

パキッと割れた。 左手の小指の爪だ。 台所で食器を洗っている時、なぜか割れてしまった。 最初は気づかなかった。 食器を片付けていると、ふと痛みを感じて、ああ、と思ったのだった。 とりあえず、絆創膏を貼って、応急処置をとる。 先っぽから白いところ…

【短話】オススメのホットドック

大通りの途中、左手に、狭い路地がある。 その路地の入り口にはゴミ袋が置いてあって、そこから誰も入りたがらないのだけれど、その道の奥、換気扇の様々な匂いが混じった通路を抜けると、四方が建物に囲まれた小さな広場がある。 そこに、薄々と煙を出して…

【短話】一房の髪

疲れた。 歩いている人が、みんな俯いているようにみえる。 首の骨がぐっと突き出、顔が右左に揺れている。 それなのに足はいたって元気にしていて、踵が地面を踏み込んでいる。 彼らは、いつまでも薄暗い駅の光を頼りに歩く。 彼らには腰がない。 腰は、何…

【短話】明後日の日記

今日は七月十七日月曜日。 いつものように日記を開くと、そこには今日のことが書かれてあった。 これから書こうと思ったのに、不思議だ。 誰かが書いたのか。いや、筆跡は自分である。 さっき仮眠したから、書いたこと忘れちゃってたのか。 歯磨きしたかどう…

【短話】仮眠

チカチカと時計の針が鳴る中で、漫然とテーブルに相対す。 そこに置かれた手のひらの鉢は、エアコンが打ちつけ、先々揺れるアスパラガス。 水道水をひねり、計量カップにドバドバいれる。 入れ過ぎであるとわかりつつも、てきとうなところでテーブルに持って…

【短話】子どもの輪

時計の針が十五時半を回りました。 学校の玄関から次々と、子どもたちが跳ね飛んでいきます。 楕円のグラウンドで各々がグループを作り遊んでいます。 最近流行っている遊びは、誰かが中心に立って、その周りを他がぐるぐる回る遊びです。 一番楽しいのは、…

【短話】閉店業務

「ったく、まだ明かりをつけてやがる。ねぇ、おたくさん。もう八時ですから。」「もう少し待ってよ。まだウチで食べたいと思ってるんが来るかもしれん。」「もうないですよ。すぐ来ますから。」 「ねぇ、おたくさん。いつもいつも、どうして八時になったのに…

【短話】再生する信号機

うたた寝をしてしまった。 急いで夕飯の買い物に出かけなくては。 そうして彼女は、いつもなら行かない近くのスーパーで間に合わせることにする。 エコバックを肩に背負い、横断歩道で立ち止まる。 信号が緑になった。 なんとなく落ち着かない感じがしていた…

【短話】波食うラーメン屋

ガラス張りの座席で、向かいの歩道をみつめていた。 そこに長蛇の列。 一体何に並んでいるんだと、視線を少し右にやる。 店員が先頭にメニューか何かを尋ね、書き取り、店内に潜っていった。 その時めくれた暖簾には、「ラーメン」と書かれてあった。 真昼の…

【短話】濡れ男

鏡の前で、ぐっしょり濡れた自分をみる。 真顔の裏に、薄ら笑いを浮かべていた。 小さい頃から、元気だけはあった。 学校にはだいたい、年中半袖みたいなやつがいるが、そこまでではないにしても、腕をよく巻くっていた。 部活は野球部で、野球が好きという…

【短話】コンビニで売ってる月-どんな月なら-

生まれて初めて、月をみた。 私はずっと独身で、かといって男の人のように働ける元気もなかったので、今もパート生活で手いっぱいです。 疲れますけど、まあそれは自分に体力がないこともありますし、だからその分、しっかり睡眠は取っている方です。でも、…

【短話】太陽を操る男

眠たい。いや、寝ている。 そうやって今、意識を下ろした。朝のシャッターが開き始めたのに、途中で眩しすぎる光が差し込んできたとみえ、急いでスイッチを反対方向に戻す。シャッターは機械であるから、無事に下がってくれる。その切り替えのタイミングが、…

【短話】つまらない河

僕は河を流れていた。気づいたら河だったのである。視界の周りには、水面しかなかった。そこに流されている。おそらく、かなりゆっくりなスピードで、把握できないギリギリの速度を感じる。足が、ついていない。 上を見上げると、真っ白い空が広がっていた。…

【短話】後ろ姿の自分

歩いていた。僕がではない。僕の前にいる自分が、歩いている。となれば、今語っている私、これは一体誰であろうか。考えても仕方ない、そんな気がしたから、とにかくついていくことにした。 仮にその後ろ姿を少年と言っておこう。少年は今、住宅街の道を歩い…

【短話】座り続けるおじさん

ぼくのおうちには、おじさんがいました。でもちょっと変わっています。 ずっと、おぶつだんの前ですわっているのです。ずっと、ずっと。 ごはんのときは、動きます。のそっと、のそっと。 でも食べおわったら、またもとにもどっちゃうのです。 なにかおいの…

【短話】夢見の自動販売機

家の近くに、自動販売機があります。 ジュースではありません。小さい小包のようなものです。 一体何かというと、枕元に置く。それで寝れば、その夢がみられる。 いわば、夢見の自動販売機なのです。 値段は、ジュースと一緒で百円台。 何が並んでいるかとい…

【短話】表情うそつき

「おはよう。」 「ん、おはよう。」 「きょうも元気?」「うん、まあ見てのとおりさ。」 「うん。」「きみは…元気がないね。」 「うん。」「どうしたんだろう。」 「うん。」「なにかいやなことあった?」 「ううん。」「でも、つらい顔をしてる。」 「そう…