【短話】濡れ男
鏡の前で、ぐっしょり濡れた自分をみる。
真顔の裏に、薄ら笑いを浮かべていた。
小さい頃から、元気だけはあった。
学校にはだいたい、年中半袖みたいなやつがいるが、そこまでではないにしても、腕をよく巻くっていた。
部活は野球部で、野球が好きというより、ただ自分の有り余ったエネルギーを消化できるのがよかった。泥んこになった服を見るたび、頑張った汗が目に見えて浮かんでいる気がして、誇らしい気分になった。
今はもう野球からおさらばしてしまったが、それでも、泥がつくような土木作業の仕事をしている。
かつて固かったグラウンドは、今や泥濘んだ地面。
まあそれが、俺の人生の一番の変化だと言っていい。
あとは何も変わらない。
朝起きれば体力が湧き出てくるし、汗もよくかく。
シャツも染みだらけで、そこから黒光りした腕も生えている。
本当に変わらない。
いや、シャツってこんなに汚かったか。何年前のだ、これ。