1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【短話】運び損ね

それで、どうしたの?ガヤガヤうるさい食堂で僕は問われている。いやぁ。でも、渡せなかったんです。えー。先輩はのけぞり返り、わざとらしい声をあげる。じゃあ、こうしようよ。バックから取り出した紙一枚と、シャーペン。校内の様子を書いていく。今、こ…

【聞き取り】ある火災事件

ここで何があったんですか。みりゃわかるだろう。火事だよ火事。でも私には見えないですし。わかるでしょ、俺の肌みればさぁ。ええ、まあ確かに、爛れています。ったく、本当に痛かったんだから。知ってる?火傷で死ぬって気持ち。いや、わからないです。急…

【短話】手のひらの小箱

手元に小さな箱がある。縁には埃がついている。払ってみてもキレイにならず。布巾を濡らして拭ってみる。包むよう全体を触って。思った小さい感じ方。内に隠れる大きさ。強いとそれは潰れてしまう。へしゃげたって出てこない。悲しい気持ちだけが残るだろう…

【短話】透明な船

船を漕いでいた。波に打たれ、重心を保って、腕を前に運んで引いた。今朝、港で吐いた息の先。視線は月光が差し込んだところに落ちていた。 魚になったかと思う。海にいた。船が転覆したのだ。すくわれてしまった。海がコンクリートだと思った。漕ぎ棒は垂直…

坂口恭平を走り書く_3

断る理由はなかった。ぼくは小さい頃に連れていってもらったロシア人のサーカスしか行ったことがなかった。ぼくには経験がなかった。いまもない。いろんな経験はある。あるはずだ。あるのにかたっぱしから忘れてしまう。いつも何も残らない。それでもいま、…

【ざっ記】無理に頑張らないで書く感じ

できれば毎日、何かしら文章を書きたいと思っている。書くというのは僕にとって生理的な行為で、出さないとお腹の中で詰まってしまう。詰まると便秘になってしんどい。 それでも、書きたくないことがある。便秘になっているのか。きっとその反対。空っぽなの…

【短話】穂の黄金

穂がなびていて。そこに、一匹のてんとう虫を見つけた。夜になっても光らないけど、ちゃんと見えていた。かき分けて、かき分けて探せたから。一本だけ、丈夫なもの。それを掴めればよかったから。 *** 夕陽が昇っていた。私はそう思ったの。顔を逆さまに…

放ちながら掴む【坂口恭平を走り書く_2】

僕は死者からの附箋を発見し、言葉にしたいというエネルギーを持つと、まずは体を動かしはじめる。勢いよく歩いたり、人とより多く会おうとしたりする。そして、機が熟すると台所へ向かい、妻の前でああでもない、こうでもないと振る舞いはじめる。体をひね…

【短話】双子の流れ星

空に青空が広がっていた。歩いている私。流れる河。浮いていた。小さな石ころが。降っていた。小さな結晶が。それは、私の涙か。 学校からの帰り道。今日も、悪口言っちゃったなって歩く。言葉はもう元に戻らないのに、頭で何度も再生して、抹消された記憶を…

研究方針 【坂口恭平を走り書く_1】

この記事をお読みになってくださっている方は、坂口恭平さんのことをある程度ご存知なのだと思います。なので、坂口恭平さんがどんなことをしている方なのかは紹介しません。なので、この記事のカッコ書きのところに書いてある「坂口恭平を走り書く」の意味…

【お話】2023年10月17日

打ち込んできた。避けれたかどうか分からない。接触感はない。過ぎていく。みてももう遅い。遠くに行ってしまった。追いかけても仕方がない。踏ん張る。振り返る。戻った。 *** 歩いていた。鳴った。自分だ。無視した。どうにでもなれ。気張る。遠くなっ…

【短話】中華料理屋

油の揚がる音がする。カウンターの前に座っている私は、両隣が男性に挟まれてしまい、少々息苦しい。しかし、これから来る料理、待ちに待ったあの料理とご対面できるとなると、それも我慢できる。 ここは昔ながらの中華料理屋さんで、玄関を入ると床がベトっ…

【短話】ふかい体験

とどのつまり、それって深いってことよ。え?不快?そうそう。だって、つい気になるでしょ。まあ、気になるから不快なのかも。 横断歩道を渡っていく。向かいにからは誰も来ない。 いやぁ。最近深い体験してないよ。えー、まあしなくていいじゃない?え、し…

【短話】パイプの工事

地下のパイプを工事をしていると、地上の音がいろんな風に聞こえる。ウォーウォー泣いているのは、人が歩いている音。カーカーカラスの鳴き声みたいなのは、赤ちゃんの鳴き声。クークー熊の寝息みたいなのは、電車が通り過ぎる音。 工事が終わり、マンホール…

【短話】草原の晴れ

晴れた日のこと。お日様が焼いた。座っている側で、草がしなっていく。暑い。オゾン層が一枚剥がれてしまったみたい。 紫色に空が押し寄せてきて。飛んでいる鳥が低空飛行して。木はテッペンを垂れ下げていて。ベンチに誰かが座り始める。 歩く元気がなかっ…

【短話】ヒーロー

画面に登場したのは、一人のヒーロー。背後の爆発、靡くマント。 勢い強過ぎたのか、マントが顔にかかる。なかなか剥がれそうになくって、それでも登場ポーズを決めていて。なんだかかっこいいって思った。 呼吸はできてるのかしら。あ、でもマスクで確保さ…

【短話】ピーちゃん

手を伸ばし、胸いっぱいに吸う。ここはとっても豊かなところ。みんながいて、一人ぼっちにならないところ。ピーちゃんが声をかけてきた。 ねぇ、一緒に遊ぼうよ。えー、何するー?うーん。トランプ!お、いいねいいね、トランプトランプ。 葉っぱをいくつか…

【短話】扉

差し迫っている。もうすぐ〆切だというのに間に合うか。気づけば朝が来ている。寒かった空気が部屋から出ていく。でも、押し入れの空気は出ていかない。作業を一旦やめ、押し入れの前に。額を扉ギリギリに近づける。中の物音を聞く。ガサゴソと、布団の中で…

【短話】店

これいくら?大した値段じゃないよ。でも、みるからに高そうじゃない。いや、他のお客さんもそういうんだけど…意外とそうじゃない?そう、そう。もし、もしね、あなただったら欲しい?それゃ…そうだ。今、迷ったよね。いえ、買った時の喜びを想像してました…

見えない建物

草が生い茂る中に、一箇所だけ背の低いところがある。周りは膝まであるのに、そこだけくるぶしぐらいなのだ。誰かが踏んづけたにしては大きい。直径肩幅サイズ。 覗かないと分からなかった。見えないけれど、生き物が動いてる。何をしているか分からないけれ…

【短話】分岐する道

ここから道が分岐している。二本どころではない。四本、五本だ。 どれを選んだら正解か。そんなことを考えている暇はなかった。 足はもう行き先を決めていた。後は頭が許すだけ。 しかしそれがうまくいかない。時間が差し迫ってきているというのに、踵が動こ…

【短話】別荘のきのこ

きのこが生えている。自分の身長を遥かに超えている。 別荘の裏に生えていた。きのこだったら普通、木の周りちょびっと生えているぐらいだろう。き・の・こ、という名前だし。 でも違った。全然木の側じゃないのである。むしろ、周りに木のない落ち葉だらけ…

【短話】黒いレジ袋

しわくちゃになったレジ袋。僕はそれをぶら下げ、外に出かけている。ポストの前を通り過ぎ、角を曲がる。もうすぐで図書館だ。その時だ。泥棒が横切った。なんでわかったかというと、黒い覆面をつけてたから。いや、あれは黒いレジ袋だったか。とにかく全速…

【短話】朝ごはん

白ごはんが食べたい。そう思った。けれど、お椀がない。食器棚を見たが、お椀だけがなかった。炊飯器には、炊けたご飯が入っている。朝早く起きて、お米といで、手が冷たい思いをして、お腹すいたのに一時間待って、ようやく炊けたと思ったら、この結果であ…

【短話】一人キャンプ

排水口があった。周りの水が流れ込んでいく。足元をすり抜けて、身体を置いていって。葉っぱがいくつか浮かんでいった。黄色や赤色、形も色々。ぶつかったり、重なったり、離れたりしながら、入っていく。勢いもあるから、液体に皺を作っていて、波も立って…

【短話】ぬいぐるみ

遠くに離れた。離れ離れになった。きっとあの子は心配してる。僕もそう。心配してる。 一緒に手をつないでいたのは、ぬいぐるみ。お目目がボタンのぬいぐるみ。お腹が少し裂けていて、あとでおばあちゃんに直してもらわなきゃ。 電車に乗っていると、夜にな…

【短話】雲

穏やかな気候だった。山が広がり、海が裂ける。 海が、広がっていった。山が裂けていく。 記憶はどこにあるんだろう。頭の中だろうか。それとも身体。 違う。場所じゃないか。目の前に起きていること、生まれたところ。 水が傾れ込んでくる。このままだと巻…

特集「読み渡る、陥穽」(その日新聞、第四号)

自分の好みだけを詰め込んだ新聞、第四号です。 さまざまな記事の中から、短編記事を抜粋です。 短編 トンネル 六歳の時、僕は何をしていたんだろうか。きっと、砂遊びばかりをしていたに違いない。 親が隣でヒソヒソと話している。あの子ったらほんとにもう…

走った、その賭け 特集(その日新聞 第三号)

一方通行の手紙『カーテンに居た人へ』 昼休み、教室のカーテンに居た人へ。 授業にでなかった、あの人へ。 ところで、今君は何をしているんだろう。 「ところで」と始めたのは変かもしれない。でも、僕がこの手紙を書き始めたのは、まさしくそういう出来心…