1ルーム

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走った、その賭け 特集(その日新聞 第三号)

一方通行の手紙『カーテンに居た人へ』

 

昼休み、教室のカーテンに居た人へ。

授業にでなかった、あの人へ。

 

 ところで、今君は何をしているんだろう。
 「ところで」と始めたのは変かもしれない。でも、僕がこの手紙を書き始めたのは、まさしくそういう出来心があったから。
 普段、君のことはあまり考えないようにしている。授業の時、いつも視界の端に映り込んでしまうのを、避けようとしている。
 別に避けなくっていいじゃないかと思うかもしれない。でも、避けないと落ち着かない、そういうことだってある。

 初めて君を見かけたのは、カーテンの裏だった。いや、カーテンが後ろだったか。
 とにかく、それは僕が昼休み、ちょうどそこには誰もいなくって、ラッキーと思って入ったその扉から。
 その時は体育終わりで、一番乗りに着替えて教室に帰った。
 教室の窓は空いていて、あー、誰か閉め忘れたんだと思った。でもそのおかげで、ちょうど心地いい風が吹いて。
 あれ、君の姿はどこで見つけたんだっけ。

 そう。カーテンだ。カーテンがその時揺れた。光が入って、床に波みたいな影を作って。
 足が見えた。
 びびったよ。人がないと思ってたから。君は、誰よりも早く着替えてそこにいたんだ。いや、もしかしたら授業に出てなかったのかもしれない。

 そこで君は、何をしていたんだろう。
 窓から景色を眺めていたのだろうか。グラウンドは見える。
 体育で、円をぐるぐる走っている僕たちを見ていたのだろうか。そんなつまらないものをみてどうするのか。
 
 あれから、君はすぐ消えてしまった。風が吹いたから。今度は廊下から。
 二番目の人が入ってきてたんだ。僕は慌ててそっぽに向いた。きっと、馬鹿にされるような表情をしていたから。
 そこから、もう、君には会えずじまい。

 

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