1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

ショートストーリー

【短話】運び損ね

それで、どうしたの?ガヤガヤうるさい食堂で僕は問われている。いやぁ。でも、渡せなかったんです。えー。先輩はのけぞり返り、わざとらしい声をあげる。じゃあ、こうしようよ。バックから取り出した紙一枚と、シャーペン。校内の様子を書いていく。今、こ…

【短話】手のひらの小箱

手元に小さな箱がある。縁には埃がついている。払ってみてもキレイにならず。布巾を濡らして拭ってみる。包むよう全体を触って。思った小さい感じ方。内に隠れる大きさ。強いとそれは潰れてしまう。へしゃげたって出てこない。悲しい気持ちだけが残るだろう…

【短話】透明な船

船を漕いでいた。波に打たれ、重心を保って、腕を前に運んで引いた。今朝、港で吐いた息の先。視線は月光が差し込んだところに落ちていた。 魚になったかと思う。海にいた。船が転覆したのだ。すくわれてしまった。海がコンクリートだと思った。漕ぎ棒は垂直…

【短話】穂の黄金

穂がなびていて。そこに、一匹のてんとう虫を見つけた。夜になっても光らないけど、ちゃんと見えていた。かき分けて、かき分けて探せたから。一本だけ、丈夫なもの。それを掴めればよかったから。 *** 夕陽が昇っていた。私はそう思ったの。顔を逆さまに…

【短話】双子の流れ星

空に青空が広がっていた。歩いている私。流れる河。浮いていた。小さな石ころが。降っていた。小さな結晶が。それは、私の涙か。 学校からの帰り道。今日も、悪口言っちゃったなって歩く。言葉はもう元に戻らないのに、頭で何度も再生して、抹消された記憶を…

【お話】2023年10月17日

打ち込んできた。避けれたかどうか分からない。接触感はない。過ぎていく。みてももう遅い。遠くに行ってしまった。追いかけても仕方がない。踏ん張る。振り返る。戻った。 *** 歩いていた。鳴った。自分だ。無視した。どうにでもなれ。気張る。遠くなっ…

【短話】中華料理屋

油の揚がる音がする。カウンターの前に座っている私は、両隣が男性に挟まれてしまい、少々息苦しい。しかし、これから来る料理、待ちに待ったあの料理とご対面できるとなると、それも我慢できる。 ここは昔ながらの中華料理屋さんで、玄関を入ると床がベトっ…

【短話】ふかい体験

とどのつまり、それって深いってことよ。え?不快?そうそう。だって、つい気になるでしょ。まあ、気になるから不快なのかも。 横断歩道を渡っていく。向かいにからは誰も来ない。 いやぁ。最近深い体験してないよ。えー、まあしなくていいじゃない?え、し…

【短話】パイプの工事

地下のパイプを工事をしていると、地上の音がいろんな風に聞こえる。ウォーウォー泣いているのは、人が歩いている音。カーカーカラスの鳴き声みたいなのは、赤ちゃんの鳴き声。クークー熊の寝息みたいなのは、電車が通り過ぎる音。 工事が終わり、マンホール…

【短話】草原の晴れ

晴れた日のこと。お日様が焼いた。座っている側で、草がしなっていく。暑い。オゾン層が一枚剥がれてしまったみたい。 紫色に空が押し寄せてきて。飛んでいる鳥が低空飛行して。木はテッペンを垂れ下げていて。ベンチに誰かが座り始める。 歩く元気がなかっ…

【短話】ヒーロー

画面に登場したのは、一人のヒーロー。背後の爆発、靡くマント。 勢い強過ぎたのか、マントが顔にかかる。なかなか剥がれそうになくって、それでも登場ポーズを決めていて。なんだかかっこいいって思った。 呼吸はできてるのかしら。あ、でもマスクで確保さ…

【短話】ピーちゃん

手を伸ばし、胸いっぱいに吸う。ここはとっても豊かなところ。みんながいて、一人ぼっちにならないところ。ピーちゃんが声をかけてきた。 ねぇ、一緒に遊ぼうよ。えー、何するー?うーん。トランプ!お、いいねいいね、トランプトランプ。 葉っぱをいくつか…

【短話】扉

差し迫っている。もうすぐ〆切だというのに間に合うか。気づけば朝が来ている。寒かった空気が部屋から出ていく。でも、押し入れの空気は出ていかない。作業を一旦やめ、押し入れの前に。額を扉ギリギリに近づける。中の物音を聞く。ガサゴソと、布団の中で…

【短話】店

これいくら?大した値段じゃないよ。でも、みるからに高そうじゃない。いや、他のお客さんもそういうんだけど…意外とそうじゃない?そう、そう。もし、もしね、あなただったら欲しい?それゃ…そうだ。今、迷ったよね。いえ、買った時の喜びを想像してました…

見えない建物

草が生い茂る中に、一箇所だけ背の低いところがある。周りは膝まであるのに、そこだけくるぶしぐらいなのだ。誰かが踏んづけたにしては大きい。直径肩幅サイズ。 覗かないと分からなかった。見えないけれど、生き物が動いてる。何をしているか分からないけれ…

【短話】分岐する道

ここから道が分岐している。二本どころではない。四本、五本だ。 どれを選んだら正解か。そんなことを考えている暇はなかった。 足はもう行き先を決めていた。後は頭が許すだけ。 しかしそれがうまくいかない。時間が差し迫ってきているというのに、踵が動こ…

【短話】別荘のきのこ

きのこが生えている。自分の身長を遥かに超えている。 別荘の裏に生えていた。きのこだったら普通、木の周りちょびっと生えているぐらいだろう。き・の・こ、という名前だし。 でも違った。全然木の側じゃないのである。むしろ、周りに木のない落ち葉だらけ…

【短話】黒いレジ袋

しわくちゃになったレジ袋。僕はそれをぶら下げ、外に出かけている。ポストの前を通り過ぎ、角を曲がる。もうすぐで図書館だ。その時だ。泥棒が横切った。なんでわかったかというと、黒い覆面をつけてたから。いや、あれは黒いレジ袋だったか。とにかく全速…

【短話】朝ごはん

白ごはんが食べたい。そう思った。けれど、お椀がない。食器棚を見たが、お椀だけがなかった。炊飯器には、炊けたご飯が入っている。朝早く起きて、お米といで、手が冷たい思いをして、お腹すいたのに一時間待って、ようやく炊けたと思ったら、この結果であ…

【短話】一人キャンプ

排水口があった。周りの水が流れ込んでいく。足元をすり抜けて、身体を置いていって。葉っぱがいくつか浮かんでいった。黄色や赤色、形も色々。ぶつかったり、重なったり、離れたりしながら、入っていく。勢いもあるから、液体に皺を作っていて、波も立って…

【短話】ぬいぐるみ

遠くに離れた。離れ離れになった。きっとあの子は心配してる。僕もそう。心配してる。 一緒に手をつないでいたのは、ぬいぐるみ。お目目がボタンのぬいぐるみ。お腹が少し裂けていて、あとでおばあちゃんに直してもらわなきゃ。 電車に乗っていると、夜にな…

【短話】雲

穏やかな気候だった。山が広がり、海が裂ける。 海が、広がっていった。山が裂けていく。 記憶はどこにあるんだろう。頭の中だろうか。それとも身体。 違う。場所じゃないか。目の前に起きていること、生まれたところ。 水が傾れ込んでくる。このままだと巻…

【短話】屑拾い

下着一枚だけで寝ている。今日も屑拾いで疲れた。誰もやらないから、誰かがやる。あの田んぼのあたりによく落ちている。十五時、十六時ぐらいの時間帯がいい。その時間に拾い始め、夕方に終わる。夕方が暮れると、怖い道になるから。ジャングルみたいな道に…

【短話】月イチの店番

結婚してから数年になる。家のお手伝いをしながら、過ごす。と言っても、一ヶ月に一回ぐらい。うちの家は、小さな書店だ。家の手伝いと言ったのは、店番のこと。私は座って、人が一冊選ぶのをみるだけ。夫は本の仕入れに行く。 この日は、なぜか荷物を預かっ…

【短話】池田

小学校四年の時、夜遊びに出かけた。家でトラブルがあって、我慢ならなかったから。外をぶらぶら歩くだけ。何もすることがないのは、何かしてしまうことに不安があったから。人でも殴ってやれやぁいいのに、そんなこと微塵も思わない。それに俺は、ボコボコ…

【短話】洗濯機

私、お母さんの生活は、洗濯だ。洗濯機を回している間に、新聞が届く。めくると、金魚と書いた記事。金魚をイメージしたお弁当箱が流行っているらしい。海苔が金魚の形で、ご飯が水。箱が金魚鉢。今は七時半。ゆっくりコーヒーを飲んでいる。仕事の準備をし…

【短話】お産

山奥に潜むおうち。食器が揺れる音がする。私はそこに住んでいた。住んでいたというのは、もうだいぶ前の記憶だから。子どもを産んだんだと思う。それくらい曖昧な記憶。私は確か、庭に寝転がっていて、草をテキトーにむしっていたと思う。手のひらにくっつ…

【短話】寺山修司

公務員として働いてもう三年になる。机の下にはいつも寺山修司を忍ばせ、仕事の合間にちらっとページをめくることにも慣れた。 もう四月で、年度が切り替わる時期に来ている。同時に、仕事を辞める人にとっての時期でもある。 その人が退職するということで…

【短話】遅刻

遅刻だ。 時計を見ると八時半、もう間に合わない。 みんなどうして起きれるのか不思議だ。 両親だってよく会社に遅刻するのに、私以外の家族は本当にすごい。 朝起きて、もう学校無理だなと思って、のびのびベットから上がる。 一階に行くと、二階の天井から…

【短話】幼稚園

幼稚園は楽しくなかった。土がなかった。工事ばかりしていた。 遊ぶ時間、誰もが静かだった。みんな、部屋の方が賑やかなのに、でもだから、その部屋から追い出されたのかもしれなかった。 一言でいえば、その幼稚園は安っぽかった。他の施設だとお金が高く…