【短話】穂の黄金
穂がなびていて。そこに、一匹のてんとう虫を見つけた。夜になっても光らないけど、ちゃんと見えていた。かき分けて、かき分けて探せたから。一本だけ、丈夫なもの。それを掴めればよかったから。
***
夕陽が昇っていた。私はそう思ったの。顔を逆さまにしてたから。それでも、血は下に降りていくのね。
オレンジ色になったの。穂に絨毯が被さってね、耐え切れると思ったんだけど、やっぱりダメだったみたい。軽すぎたんだ。全部潰れちゃった。
でもね、見つけたの。一つだけ暗いとこ。周りは赤くってね、真ん中だけ真っ黒なの。こんなところにあるはずないものよね。だって、人の頭だったのもの。手に取った時ね。
中身がなかった。目はなくって、歯もなかったし、耳もなかったね。せめてあったのは、そうだね、鼻ぐらいかしら。でもね、その鼻は素敵だったのよ。私がみたことないぐらい。
しばらく見つめあったわ。目はないのに?いいえ。瞼を閉じていたわ。だからわかったのよ。返すのは当然じゃない。
そうしたらね、口が静かに動き出した。音はないわ。身体はないんですもの。ただね、それは風だった。音楽だったのよ。色付きのね。それも赤い、オレンジ色に負けない、真っ赤っかでね。耳から心臓に入って。
でも、その音は大きすぎたの。心臓が破裂しそうでね。目を閉じるの。そしたら、彼には身体があったのよ。瞼越しの風景ね。
彼は穂からできていた。きちんと根が張ってあってね、周りとうまくやってたみたい。まあ、もうオレンジにやられたんだけど。
そんな時にね、私が見つけたの。私にはやるべきことがあるってこと。手のひらにのった彼にすること。彼の口は閉じているのよ。もうわかったもんじゃない。早い者勝ちよ。
*
一人の女性の手に、一つの顔がのっていた。
女性は頬を、もう片方の手で寄せていく。
沈んでいく。夜が訪れる。
紫滲んだ黄色が染め上げる。
二人だけの影を置いていき。
一つの結びつきを示した時。
月が吸い込み、影はなくなり。
黒く、焼けた跡だけが残った。
微かに、煌めいて。
新しい穂の芽が、黄金の瞬間のままで。