1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

長編

【長編】冒険の神話(16)最終話

その火山は静かに活動していた。またいつ激しくなるかわからないが、それもしばらくなさそうだった。 麓は落ち着いていた。静かすぎるくらいだった。動物の気配など一欠片もない。ただ、穴がボコボコと開いている。火山の地下で漏れたガスが、周りで抜けてで…

冒険の神話(15)

二人は、色々な場所を探し回った。かなり飛び回った。でも、なかなか見つかるものではなかった。いや、冷たい場所ならたくさんあり、冷たい人間ならたくさんいる。しかし、それらは多すぎて、彼らの仕事の対象にはならなかった。彼らが求めていたものは、暖…

【長編】冒険の神話(14)

【長編】冒険の神話(13)

呼び出しがかかった。きっと雲の上の主からだろう。 その調べは、一見なんの変哲もない騒めきで示された。あの夜の後、僕はずっと草原で寝ていた。そしたらふと、目が覚めたのである。周りは、草で囲まれている。その草が、本当に少しだけ、自分の方に迫って…

【長編】冒険の神話(12)

静かになった。牛がモーッと鳴いた。星がきらっと輝いた。 おじいさんは、ちょこんとそこに座っている。多くのことが起き過ぎたせいか、しばらくぼーっとしている。 今度は、馬が鳴いた。おじいさんは、向かい斜めの方をみる。馬は涎を垂らし、ぎょろっとお…

【長編】冒険の神話(11)

夜明けが近づいてきた。山の方から太陽が照り出してくる。 僕はこの世界にやってきて、ようやく一仕事終えたばかりである。後ろをみると、まだあの町は焼けている。さっきよりも焼けている。 あの建物についた火が、他の建物にも燃え移って広がっているのだ…

【長編】冒険の神話(10)

男は野菜売りの人から、おまけももらっていた。売れ残ったキャベツである。それも手に余るぐらいのものである。男はバックに入りきらなかったので、仕方なくもう片方の手で持つことにした。だから今、男の両手にはあの本と、キャベツが乗っかっているのであ…

【長編】冒険の神話(9)

背中の感触が柔らかかった。誰かの笑う声。遠くの方では、嘆く声。悲しい気持ちになったり、嬉しい気持ちになったりする。落ち着いてく気持ちは、ただ分厚い、安心感であった。 日の光が近くにあるだろうことはわかる。それも相当近くだ。けれども、不思議と…

【長編】冒険の神話(8)

船自体はそれほど大きくなかったが、操縦室と、その奥に倉庫部屋があった。 操縦室の窓ガラスは割れており、そこからハンドルが剥き出しになっている。 僕はその部屋に入った。そこにはたくさんのボタンがあった。船を操作するのに、これほどの数が必要なの…

【長編】冒険の神話(7)

僕は死ななかった。海に、あの油の海に落ちていったのだ。あれほど遠かった海まで飛ばされたのだ。 落ちた時、衝撃はほとんど感じられなかった。むしろ、包んでくれる感じだったと言っていい。僕の落ちるところを、身構えて待ってくれていたように、海は僕の…

【長編】冒険の神話(6)

キツネはそれでも首を横に振る。なんでそんなに否定するのさと、僕はまた肩をくすめる。 すると、俺も同じだったからだと答える。要するに、俺も、お前と同じであの果実を取ろうとしたんだ。でも取れなかったから、こんな姿になったんだ。俺は普通の人間だっ…

【長編】冒険の神話(5)

道をずっと登っていく。砂粒だった道は、次第にその石を大きくし、瓦礫の道になっていく。周りの木々は、隙間の空いた地面から巧みに姿を紡ぎ出し、そこら一体の瓦礫を食べるかのように生えている。 それらの木はどこまでいっても高く登っており、その様子は…

【長編】冒険の神話(4)

起き上がる。外を見る。子どもたちはそろそろ、各々のビルに戻っていったらしい。 それは、遊んでいた子どもたちだけ。 窓から見える道には、別の子どもたちがいる。遊んでいない。俯いている。 さっきの楽しそうな子どもたちとはうって変わり、そこには苦し…

【長編】冒険の神話(3)

階段はやけに砂こけていた。足には砂がこびりついている。自分はここで、足裏の感覚を取り戻しつつあった。 次第に昼の匂いが香ってきた。壁には植物の蔦が這い始める。地上に近づいている。光が差し込んでくる。 気づくと、地上に出ていた。光がほとんど出…

【長編】冒険の神話(2)

船がやってきた。この流れの横幅はそこまで広くない。このままだとぶつかる。 その船は、上流の方、山の頂上からやってきたみたいだった。木の船。何か積んでいるような。 すると、僕のぎりぎりのところで何か竿のようなものを出してきて、底に突っ立てた。…

【長編】冒険の神話(1)

立ち上がり、ムクっと起きた。外は真っ暗で、蒸気だけが満ちている。 起き上がるだけで、身体が軋む。ずっと寝ていたようだ。それも、死後硬直のように。 目覚めた時、ハッと、息を大きく吸った。その衝撃で、横隔膜が驚いたのか、ずっとしゃっくりが止まら…

【長編】舞台(10)完結

足りない。こんな音ではダメだ。ダメになる。 足の震えはまだ治らない。もっと、もっと踏む。足裏が地面にくっつくぐらい。 膝を曲げ、重力に従い、力を込める。足の骨が軋んでもいい。いま、ようやくその音を捉えたんだ。今まで練習してきたのに、ずっと気…

【長編】舞台(9)

ー僕ー 離れた。離れざるをえなかった。彼女が唾を吹きかけてきたからだ。 僕は彼女の首を絞めていたことに気づく。顔中が、シャワーより細かい感覚で満ちていく。こんなにも唾を浴びたことはなかった。そもそも人に浴びせかけられたこともなかった。 何をし…

【長編】舞台(8)

嫌そうだった。彼の顔。面倒臭そうにしていた。 私が遅れたのがそんなに?まあ、初めての舞台だし、そう思うのも無理ないけど、それは私だって同じだし、私も緊張してる。外から見たら、私はすごく落ち着いているように見えるけど、結構緊張してるんだから。…

【長編】舞台(7)

-私- ふらっとした。貧血気味なのか、舞台が始まるとともに、身体が傾く。 彼がセリフを話し始めた。あれ、出だしがいつもと違う気がする。少し焦ってる。少し早口になってるし、体の重心も妙に落ち着きがない。いつもより、セリフの入りが早いような…。 …

【長編】舞台(6)

繰り返す。踵を上げ、降ろす。上げ、下ろす。体重が、両足二点にのしかかる。ずしんと、自分だけに響く音。 内臓が揺れる。しかし、上下には揺れない。お互い引っ張り合い、上下左右の斜めに動く。遅れて動く。身体全身の動きについてくるように、定まりのな…

【長編】舞台(5)

頑張ってきた。たった二ヶ月の練習期間。これほど一生懸命、何かに取り組んだのは久しぶりだった。受験勉強以上に必死だった。 入部してから、いきなり脚本を渡され、主役をやってねと言われる。もちろん、脇役を選ぶこともできた。けれど、自分はそこまで言…

【長編】舞台(4)

静かだった。ホールの様子は、開演準備が整っていた。ただ、お客用の座布団がまだ敷かれていなかった。 座布団を取りに行く。場所はホール内の倉庫。出入り口から入って、左。反対にも倉庫はあるが、そこには照明器具や、主電源がある。 左の方に入る。隅に…

【長編】舞台(3)

落ち着かなかった。開場三〇分前、ホールの外での自主練。思うように身が入らない。初めて人前に舞台に立つ。観客に伝わる演技というものがどういうものか。そのことばかりが不安だった。 新入生歓迎公演という理由で、大役を頂けたことは嬉しかったが、その…

【長編】舞台(2)

大きくなる。観客が盛り上がったせいであろうか、先輩の声量が普段よりも聞こえてきた。自分は台本を手に取り、次の出番を確認する。それはメモ書きだらけで、ボロボロだ。端は破れちりじりになっている。セリフの一部には穴が空いて、周りへ皺が広がってい…

【長編】舞台(1)

暗い。しかし真っ暗でもない。息遣いがある。一つではない。何人もの、いくつもの。一つはあっち、一つはこっち。ところどころに漏れる息。 何のために息を吐いているのか。舞台の上に立つ自分。それだけではよく分からない。もし、自分が向こうのように観客…