1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】黒いレジ袋

しわくちゃになったレジ袋。僕はそれをぶら下げ、外に出かけている。
ポストの前を通り過ぎ、角を曲がる。もうすぐで図書館だ。
その時だ。泥棒が横切った。
なんでわかったかというと、黒い覆面をつけてたから。いや、あれは黒いレジ袋だったか。
とにかく全速力で走るから、口に入って息づらそう。おかしいというより、不憫に感じた。
後を見ると誰も追いかけていない。
仕方ない。一肌被りますか。

 

今、変な光景になっている。黒いレジ袋を被った男、その後ろに、白いレジ袋を被った男。どっちも口だけ開かず、ゼェゼェ息を吐く。
袋の中はすぐ水蒸気が充満し、頸から汗が滴る。目に入って、つむった間につまづきそうになる。
公園に入ると、そいつはジャングルジムの方へ逃げた。

 

追いつく。
いきなり正念場。そいつが右に行けば、僕は左に。今度は左、僕は右に。
ぐるぐる回っていては埒があない。登って斜めに行こうとした。
これが相手の思うツボだった。ジャングルジムを離れ、すべり台の方に逃げていく。
スロープを駆け上がり、近くにいた子どもに注意される。
もちろん、僕は反対から上ることなんてしない。危ないからね。しっかり階段から登り、滑り降りる。
やつは砂場で取り調べを受けていて、身の上や、最近読んだ漫画、好きな人はいるか等々、根掘り葉掘り聞かれていた。

 

端っこにいる二人に目がいった。女の子と男の子。手をつないでいる。
ずっとつないでいたいから、片手ずつで城を作っていた。今、穴がつながるみたい。
二人はちょっと興奮気味で、つながる、つながると繰り返す。外が崩れないよう、慎重に掘っていたかと思えば、最後はガッと掘りつなぎ合った。もう、掘る手はない。
僕は憎らしくなったので、蹴飛ばしてやった。子どもじゃない。城の方だ。
対して、やつは可哀想な顔をし、レジ袋を外し、砂を集め出した。
一方子どもたちは潰れたら潰れたで楽しそうで、埋まった腕を喜んでいる。きっと、そこでもつないだままだ。

 

僕はどうしようもできないでいた。強盗だと思ってた彼は、悪いやつじゃなさそうだし、そもそも誰にも追いかけられてなかったんじゃないか。むしろそうしたのは僕の方で、僕が、やつを思い込もうとしたってことなのか。
酸素切れで、地べたに座る。公園の外には電柱が連なっている。なんだよ、あいつらもつないでるじゃねぇか。
ゆったり曲がったカーブ。それが前に進むみたいに、住宅街を渡っている。
あの黒線も、何かを追いかけた跡なのだろうか。
あっ!と、子どもたちが言った。
やつが逃げ出したのである。

 

後ろ姿はただのおっさん。ちょっとハゲかかってる、頭に円のある男性。さっきの汗でへばりついているから、うなじがよく見える。どんなに頼りない髪の毛でも、そこから生えているのだ。
もう追いかける気はなかった。最初から、追いかけるつもりもなかった。でもあの時、僕は、黒だったこと、手元に白しかなったこと、これがダメだった。しわくちゃの白。向こうの黒は、ハリのある表面。遠くからみれば、そんな加減分からない。近くでないとわからない。
同じサイズの袋。でも、きっと元は同じだった。僕の方が、時間が経っていたんだ。光を当てすぎた。その白は、黒が焼けた結果なのである。