1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】別荘のきのこ

 きのこが生えている。自分の身長を遥かに超えている。
 別荘の裏に生えていた。きのこだったら普通、木の周りちょびっと生えているぐらいだろう。き・の・こ、という名前だし。
 でも違った。全然木の側じゃないのである。むしろ、周りに木のない落ち葉だらけの場所で、ニョキっと生えている。
 おまけに、常にゆらっとしている。芯は垂直を保てるぐらいには硬いが、基本的に柔らかい。だから、風が吹かずとも揺れている。
 あまりにも不気味だから、最初は切り取ろうと思った。カッターナイフを持ってきて、根本の方からいこうとする。
 でも切れない。皮がムニムニして入らない。
 知らぬうち、これほどまでなっていたのである。だから、そう簡単には切らしてくれないのか。
 今度は足で踏み倒そうとした。頭が重いから、押し倒せば折れてくれるかもしれない。
 足を芯に置き、ぎゅっと体重を乗せる。なんの音もしない。グニっと曲がっていくだけ。頭も全然重くなく、みるみる地面に近づいていく。
 結局、折れない。足を離す。勢いよく戻り、振れ幅を元に戻そうと重心を取る。
 粉が降ってきた。ほんのり、黄色の粉。
 だめだ。踊りたくなってきた。粉の作用。
 手を腰に当て、片足を出しては引っ込め、もう片足を出す。そして、きのこの周りをぐるぐる回る。だんだん腰の位置が下がってきて、コサックダンスみたいになった。
 落ち葉を蹴り上げながら、きのこに足を向け、きのこに捧げるコサックダンス。
回転していて酔ってきた。
 頭を見ると、それが風船みたいに膨らんでいる。斑点が広がって、赤色だった部分をどんどん白くしていく。それはそのまま垂れ下がり、いつの間にか周りを覆ってしまう。
 中はひどく臭かった。組んでいた手で鼻を摘む。と同時に、足の動きも止まっていた。
 閉じ込められてしまった。自分一人だけのスペース。
 外からは、きっと異様な光景になっている。第一、今いる状況から考えて、これがきのこかどうか分からなくなっている。なんで上の笠が降りてきたんだ。きのこじゃないじゃないか。
 ここには一つの部屋しかない。外の建物にはたくさんの部屋があるのに。別荘のことを思った。
 山奥で不便だけど、あれだけの広さで安いと思い、買ってしまった。中も綺麗で、木材の家らしいいい香りがしていた。これからどんな嫌なことがあっても、ここに帰ればいい。
 ただ部屋は少し変わっているというか、もしかしたら取扱い会社の気遣いなのかもしれないが、備え付けのベットが用意されていた。ちゃんとマットと掛け布団もある。枕もある。それが、どの部屋もそうしてあった。
 このきのこ部屋もそうだ。ベットはないが、十分暖かい落ち葉がある。ふかふかしてて、気持ちよさそうなのだ。

 

 そうして落ち葉を触っているうちに、時間だけが経過していく。気温が下がってきた。
 助けを呼ぼうにも、ここには一人で来たのだ。誰かにこのことを伝えているわけでもない。もしこのまま、ずっとここにて会社から心配されたとしても、ここには辿り着かないだろう。このままでは、誰も助けに来ない。
 壁に手を当ててみる。縦の筋が細かく入れ込んである。それらは天井の奥にまで伸びていて、暗く光っている。目が見えているのは、あの光のおかげだった。
 なんだかどうでもよくなってきた。お腹もずっと空かない気がしてくる。このまま、布団に入って寝ようと思う。
 横になる。落ち葉をかき集め、枕を作る。落ち葉を身体に置いていき、今度はかけ布団にする。最高のベット、というか部屋。
 うとうとしてきた。意識が朦朧としてくる。
 消えかけた。
 別荘で部屋を見て回った後、僕は空気を吸いたいと思い外に出た。扉を開け、風が吹き込み、肌寒さを感じながら階段を降りる。そして、地面に足を置いた時、クラクションが鳴ったのだ。目の前にある車からじゃない。別荘の後ろから。
 そこだ。そこに、このきのこが生えていたのである。