【短話】一定の周期
翌る日。インターホンが鳴らなくなった日。
*
長閑な土曜日だった。時計を見ると午後一時。昼ごはんも済ませ、ベットで寝転がっていた。
ピンポーン。インターホンが鳴った。あの音には慣れない。いつも怒られた気がする。
荷物が届いていた。「〇〇急便です」。声がする。ドア越しでもこちらの気配はわかるらしい。
サインのハンコを探す。ズレて、うまく受け取れなかった気がする。
中を開けると、インターホンだった。白色の輪郭に、内側が斜めの切れ込み。そして、四角形のボタン。最近、インターホンの調子が悪いのである。
というのも、うちのインターホンは毎日になるのだ。怪奇現象ではない。いつも訪ねる人がいる。
名前はサトコさん。隣の部屋に住む叔母さま。私が越してきた頃からずっと居た。そのドアは、生活感に溢れている。
生活初日、ご近所挨拶でサトコさんのところへ。つまらないものですが、つまらないものを渡す。
喜んでくれた。そして、ちょっと待ってねと言われ、ちょっと待った。
出てきたのはお菓子だ。フィナンシェ。どうやら手作りらしい。
すいません、ありがとうございます。お礼を言った。こんなものをもらえるなんて思っていなかった。とても喜んだ。
紅茶と一緒に食べる。少しほろかったが、味はしっかりしていた。卵も多く使っている感じ。隣の部屋から、甘い匂いがした。
それからだ。ずっと鳴るようになったのは。ピンポン、ピンポン。変わるがわる、違うお菓子を持ってくる。私が忙しくていない時は、ドアノブに引っかかっている。
急いでお礼を言いにいくと、いいのよと言って、はい、これもあげると、これもくれる。
クッキー、マドレーヌ、ケーキ、マカロン、グミ、ドーナツ。サトコさんが作るのは大体違った。大体と言ったのは、一定の周期で同じものが作られるからだ。例えば、フィナンシェは三週間後、といった具合だ。きっと、サトコさんの中にはブームがある。
けれど、和菓子が来たことはなかった。一方的にもらう側出し、何も言う立場にもないのだが、私は洋菓子よりも和菓子派なのである。だから今度、和菓子をお返ししようとした。でもそういう時、サトコさんはそこにいない。渡せなかった。
翌日、サトコさんがいつものように渡しにきた。私はあの、もしよかったと、それを渡した。
そっけなかった。パッと袋を取り、ありがとうの声が聞こえたかと思った時には、もういなかった。私の手元には洋菓子だけが残った。
インターホンの鳴りが悪くなったのはその頃からだ。相変わらずサトコさんは毎日鳴らすのだけれど、その音が日に日に鈍くなっていく。そうして、電子音だけみたいになって、最後はほんの小さく、聴覚検査をする時の音しかなくなった。
届いたインターホンを取り付ける。前のインターホンを取り外す。ネジをクルクル回し、カチャッと外れる。コードが伸びている。隣に、大きな文字が書かれてあった。
「お取り替え厳禁」。
隣にサトコさんがいた。