1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】段ボール

ガタン。 
ドアが揺れた。
風が強い。
日中だが、曇っていた。

ヒュー。
風が吹き込んでくる。
扉が揺れている。
立て付けが悪かった。

それでも部屋の中は蒸し暑い。
エアコンをつけている。
ドアからの風はあつい。
エアコンの風は冷たい。

時間が経った。
気づくと寝ていた。
寒さで震えた。
ドアが開いていた。

誰か入ってきたのか。
焦った。
辺りを見渡す。
誰もいないような。

とりあえず、ドアを閉める。
しかし、最後まで閉まり切らない。
蝶番がねじれている。
誰かが無理やり開けたのか。

盗まれたものがないか探した。
財布は大丈夫。
電化製品も大丈夫。
特にこれといってない。

気のせいか。
風が入り込む。
カーテンが揺れる。
天井の方で、音がした。

この部屋にはロフトがある。
そこから物音がした。
でも、人ではないような。
ゆっくり、階段を登る。

階段途中で覗く。
誰もいなかった。
段ボールが散らかっている。
いや、一番奥の段ボールが動いた。

ゴソゴソと音が聞こえる。
漁っているような、戯れているような。
勇気を出して近づく。
ロフトに上がり、その段ボールを覗く。

ロフトから落ちそうになった。
ゴキブリだ。
大きいゴキブリ。
上半身サイズのゴキブリが。

二本の触覚をウヨウヨさせている。
顔に当たりそうになった。
想像しただけで背中が寒くなる。
とてもじゃないけど殺せない。

一旦、下に降りた。
上では静かにゴソゴソしていた。
とりあえず、窓とドアを全開にした。
勝手に逃げてくれるのがベストである。

警察に電話しようか。
面倒だ。
じゃあ消防?
迷惑だ。

あれだけ大きいのをどう退治するのか。
それは無理なことだろう。
このまま一緒に住むか。
このまま逃げてくれるのを待つか。

     *

家に帰るのが怖くなった。
相変わらず、あいつは上にいるようだ。
寝ていても、たまにゴソゴソしている。
幸い、こちらに降りてくることはない。

ただ、ゴキブリは一匹いれば二匹いる。
同じサイズのやつがまだいるのか。
ため息をついた。
もしかしたら、この家全体が覆われいて。

窓とドアはずっと開けっぱなしだ。
外出していても放置。
盗まれるほどのものはない。
何よりも早く、逃げてほしい。

全開された部屋は、いつも涼しい。
空気が絶えず入れ替わる。
人の声がよく入ってくる。
ぐっすり眠れるようになった。

いつしかゴキブリのことは忘れていた。
全開だけの部屋が残されていた。
ビューッと風が入ってくる。
開いたドアが揺れている。

しばらく経ち、引っ越しすることになる。
下の荷物を段ボールにまとめる。
そして上の荷物に取り掛かろうとした。
階段を登る。

一番奥の段ボールに触れた。
それだけ重みが違った。
中を覗くと、ギャっと声を上げた。
あのゴキブリが死んでいたのである。

段ボールにパンパンになっていた。
膨れ上がっているようだった。
何かを食べていた。
この段ボールには、本が入っていた。

このゴキブリは、ずっと本を食べていたのだった。
それで、身体いっぱいに膨れ上がり、その段ボールから抜け出せなかったのである。
そしてそのまま、その場所で絶命したというわけだ。

迷惑こそかけなかったが、なんとも悲しい死に方だ。
本で死ぬのはごめんだ。
ゴミ捨て場に運ぶ。

翌日、業者が来て、荷物を一通り持って行った。
空っぽになった部屋。
もう自分の部屋ではなかった。
窓を閉め、ドアを閉める。
廊下に出て、名前カード外す。
足首が何かに触れられた。
扉の下から、二本の触覚が出ていた。