1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】隣のベンチ

郵便ポストに溢れたチラシ。

その重なりを見ると感心してしまう。これほど、誰かが一つ一つのポストに投函しているのか。

僕は一応、全てに目を通す。その人が入れてくれた一枚一枚。
スーパーの広告、脱毛無料、電気屋の広告、猫を探してますの広告、そして、真っ白い紙。

A4のコピー用紙にしては、硬めだったし、画用紙にしては、しなりが強い。

誰かが入れ間違えたのだろう。手に取って眺める。

すると、切り込み線が入っていく気がした。うっすらと、斜め、縦、斜め。

ハッと思い立ち、テーブルを空け、折り始めた。

折り紙なんて何年振りだったか。何一つ覚えていないと思っていた僕が作った。

手元には、小さな紙ひこーき。

よく飛びそうだった。羽が左右に広く、持つところも軽そうだ。

飛ばしてみたい。

しかし、この部屋では狭すぎる。広いところに行かないと。

公園に着いた。平日の昼間だからか、誰もいない。安心した。

公園で一番長い距離を測り、その端に移動する。

構え、足を弾ませ、放つ。

ふわっと、浮いた。

それはずーっと登って行った。

途中、流石に落ちるだろうと思った。

しかし、それは落ちずにずっと、斜め上がりに進んでいく。

そのまま、反対側の木の茂みに隠れてしまった。

めんどくせぇ。

そう思いながら取りにいく。

とは言ったものの、高すぎて取れない。

あいにく木登りができない。

隣のベンチに、おじいさんが座っていた。

杖を持ったおじいさんは、こちらを見つめている。

何か話さなくてはいけないと思い、事情を説明した。

おじいさんはほほっと笑い、急に真顔になったかと思うと、僕が来た方向を見つめて黙ってしまった。

変わった人だと思い、そんなことよりひこーきだ、ひこーきと、長い枝を探すことにする。

ただ、自分の身長と同じぐらいの枝など落ちていない。

公園を囲む木々の下を歩き回るが、どこにも見当たらなかった。

そうして気づいた時、最初、紙ひこーきを投げたところに戻っていた。

うんざりする。

そこまでして取りに行く必要もないと思い始めた。

遠くのベンチには、あのおじいさんが座っている。

目が合った。その時だけ、おじいさんが立ったように見えた。でも、実際は座っている。

はぁー。ため息をつき、また木の下へ。

どうしたものかと腰に手を当てていると、今度は風が吹いた。

木の茂みが揺れ、ひこーきの先端が見えてきた。

よし。このままあと何回かで、落ちてくれる。

けれど、そんな都合よく風が吹くはずもない。乾燥した空気が漂っているばかりだった。

隣のおじいさんが、咳き込む。

諦めよう。もし明日落ちてたら、拾えばいい。

帰ろうとした。

すると、おじいさんが口を開く。

いいのかね。

え。

いいのかね。

うん、まあ。

それでいいのかね。

でも、僕にはできないし。

そうなのかね。

そう言われても、やることやったし。

ああ、そうかね。

ええ、そうです。

翌日、また公園に行ってみた。

紙ひこーきの姿はなかった。しかし、その代わりに落ちていたのは、鳥の死骸だった。