【短話】幼稚園
幼稚園は楽しくなかった。土がなかった。工事ばかりしていた。
遊ぶ時間、誰もが静かだった。みんな、部屋の方が賑やかなのに、でもだから、その部屋から追い出されたのかもしれなかった。
一言でいえば、その幼稚園は安っぽかった。他の施設だとお金が高くて払えない親たちが、預けるところだった。
また今日も二人、兄弟が預けられる。
二人は、自分が好きなことがやれると思ってきていた。
弟は、飛行機が好きで、部屋に着くとすぐ、そんなおもちゃがないかどうかを探す。
兄は、ホテルみたいな建物が好きで、レゴがないかどうかを探した。
けれど、そこには何もなかった。
あるのは、何もない部屋と、グラウンドと、畑。
もうちょっと何かないのか。兄弟は思う。
二人はグラウンドに出る。そこには広大な土地がある。
その四割は畑だ。その畑に実っている植物が、子どもたちの報酬だ。何か頑張れば、先生から野菜をもらえる。
よし。じゃあ、俺らで畑を作ろう。兄弟は決めた。
でもその道のりは、大変な労働だった。休憩を入れつつ進めていった。
時には、近くの農地を見にいき、頭に残ったものだけを真似していった。
耕作地がだんだん増えていくと、他の子どもたちがやいやい、独占するなというようになってきた。そこで、「兄弟の畑」と、区画を入れるようにした。
畑づくりは、毎日やった。雨でもやった。先生からは、「事前にやる日を決めてください」と言われた。でも、兄弟はそれに対してイライラするだけで、無視した。先生は注意するだけで、教えてくれない。
種を蒔き始める。それぞれ、形がちょっとずつ違う。
種は、これもまた近くの農家さんから持ったものだった。
畑の参考に、農地を見にいく度、農家の知り合いが増えていったのだ。
それでも、まだ僕たちは子どもだから、うまくコミュニケーションは取れない。だから、僕たちに取っては親戚みたいな感じだったけど、ニコッとしてくれて、「どこで作ってるんだい?」と話しかけてくれた。でも、実際に来てくれたことはない。
種が芽生え始め、園内で仲良くしてくれるお姉ちゃんが喜び始めた。無駄に喜んでいた。
お姉ちゃんは兄の方に、「結婚しよう」「結婚しよう」と言い始める。「ほら、あの種が植ってない無駄な場所に、あそこに私たちの家を建てましょうよ。」
兄は困った様子で、「他の場所だったらいいかな。」と、やんわり断る。
それでも次第に、彼らはよく遊ぶようになり、弟に畑が丸投げされてしまった。
一人で作業するとなると、面積がもっと広く感じる。
雑草も生えてくる。そんな茂みに紛れて、どんな動物がトイレに使うかわからない。面積を減らそう、弟は考えた。
翌月、兄とお姉ちゃんは結婚式を開くことになった。結婚式場はもちろん、あの畑である。そこで弟は、その会場のセッティングを任された。
当日。結婚式の噂は保護者にまで広がり、多くの見物客が施設を覗いている。
弟は、丸投げされてからずっと一人でやってきて、畑に対する思い入れも充分だった。だから、そんなことに使われるともったいない気がした。
結婚式が始まる。お姉ちゃんが登壇に立ち、兄が登場する。草をかき分けていくから、虫がたくさん飛び散った。
そばで見ていた弟は、身体がボロボロだった。それくらい頑張った。平日の昼間に、何をやっているんだと思った。
神父役の先生が、半笑いになりながら誓いの言葉を話す。
お姉ちゃんは、はい。
お兄ちゃんも、はい。
お姉ちゃんは目を瞑る。
お兄ちゃんは目を開く。
弟はそれを見ている。
草が揺れた。
影が現れた。
猫だ。
その瞬間、誰もが釘付けになる。
あ〜かわいい!
結婚式は中止になった。