1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】愛

 

 

発達障害。診断されたのは昨日のことだった。
自分が何者かわからない。
女友だちにそのことを相談したけれど、「ああ、それゃ私、いつもお世話になってるわよ」と言われ、なんだか嫌になったので切った。

 

家に帰ると、宗教の本が目につく。メンタルが辛くなっているんだと思う。
それをわかっていながら、ページを捲る。内容がスルスル入っていく気がした。同時に、胃がグチャグチャしてくる。
「愛」の文字がたくさん書かれてある。最初は疑ったが、それがだんだん喋ってくるように感じて、それこそ現実なのかと思いたくなる。
一時間半ぐらい読んでいたと思う。その後、五時間ぐらい泣いていた。

 

ただのクズだ。嫌になる。アホだ。気持ち悪くなる。

 

最近結婚した母親。何度目だろう。何度、社会から父親が派遣されてくるのだろう。
僕も誰かの元へ派遣されないかな。

 

僕に嫁さんなんてつくだろうか。近所を散歩する。ハッと気づく。闘病か。自分は、闘病をしているのだ。
僕はまだ、独立すらできていない。だって病気だから。なんでも無茶苦茶になる病気だから。
だから今も無茶苦茶。きっとこの状態が、一年間は続くだろう。地獄です。どこかに三百万円落ちてないだろうか。

 

散歩道のベンチに、娘が座っていた。小学校一年生に何かを教えていた。母親になったつもりだろうか。
トラウマを思い出す。母親からの不条理。なんであんた、洗濯ぐらいできないの。
だから僕は、進んで押し入れに泊まり込んだ。このまま、ミイラになって亡くなってしまうのがいい。家にあるお仏壇の前で、自分の写真が並べられる様子を想像した。
でも、毒親じゃないと思う。毒なのはきっと僕。

 

タクシーが通りかかる。車椅子を運ぶ。
さっきの娘が、こう言った。「ショックや。ショックや。」
小学一年生は、「お茶だけもらおうかな。」
降ろされた車椅子の人に向かって、ヘルパーさんが言う。「今日で100回目ですね。」
なんだ、結構、愛って潤ってるじゃん。
咳き込んだ。少しさきの手すりにもたれる。
闘病か…
視界が狭くなる。
どんな治療法があるんだろう。
「お弁当持ってきたよー」
娘が言う。
気力がなくなる。ぼーっとする。
生き甲斐。

 

こういう言い方はおかしかったかも知れない。それでも、僕は隣にいる娘に言った。「あの、弁当一個ください。」
三○後半のジジイが、娘に声をかける。側の一年生は、かわいそう、という顔をする。
タクシーはもういない。車椅子が、ヘルパーさんに冗談を言っている。
笑い声が響く。
「そんなの、責任取れへんよ〜。」