1ルーム

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【短話】月イチの店番



結婚してから数年になる。
家のお手伝いをしながら、過ごす。
と言っても、一ヶ月に一回ぐらい。
うちの家は、小さな書店だ。
家の手伝いと言ったのは、店番のこと。
私は座って、人が一冊選ぶのをみるだけ。
夫は本の仕入れに行く。

 

この日は、なぜか荷物を預かった。
小学生がちょっと持ってて欲しいと。
一生懸命、何か探している様子だった。
その荷物の中には、お弁当箱がある。

 

その子は、表のガレージに現れた。
顎に手を当て考えようとしていた。
私は外に向かい、えーっと、声をかける。
…あ。女の子は気づいたみたいだった。
おばあちゃんの方か。
そう言って、古い家に行くと言った。
立たされた私。店奥の冷蔵庫が鳴る。

 

ほんの一時間ぐらいだろう、戻ってきた。
それがね、えー…。彼女は口を窄める。
はっきりしなくていいのよ、私は言う。
一つだけ、残ってたの。女の子は言う。
じゃあ、一つだけ残してください、と私。
脇道を塞いだ植物が揺れた。
お茶でも飲んでいく?

 

季節は秋で、暖房は必要なかった。
小さい書店の小さいスペースに座る。
一年に一回、出すか出さないかのお茶。
友だちにもらったものだったっけ。
お茶好き?彼女の方を見る。
で…。彼女は言いかける。
店の前を人が歩く。人通りが増えてきた。
学校は楽しい?
…本当?とでも言うような、彼女の表情。
まあ、健康だったらいいわよね。
…病院、行くの?。少女は話す。
うん。でも、お店やめることになる。
あのー、大変なら相談する。女の子。
うん。

 

お茶が沸く。
お互い、無言で含む。
本棚の匂いがした。埃を被った本棚。
女の子は辺りを見回し、動き回る。
一冊手に取り、読めないのにめくる。
そしてまた手に取り、めくる。

 

私は頬杖をついて、見つめた。
彼女は今、冒険しているんだ。
持ち帰ったものは、お弁当に詰めるんだ。

 

少女はニコッと笑った。
いい一冊を見つけたようだ。
これください。
はい、毎度あり。
お茶はすっかり冷めていた。