1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】池田

   

 

小学校四年の時、夜遊びに出かけた。
家でトラブルがあって、我慢ならなかったから。
外をぶらぶら歩くだけ。何もすることがないのは、何かしてしまうことに不安があったから。
人でも殴ってやれやぁいいのに、そんなこと微塵も思わない。
それに俺は、ボコボコにされる側だ。
池田め。
池田とは俺の苗字だが、俺は自分のことについてそれを使わない。その名前は、親を一括りに言う時に使う。
週に2回から3回、ボコボコにされる。始まりは、五年前のあの時からだった。

 

端的に言えば、俺は池田と付き合いきれなくなっていたのだ。池田のために励ましたり、池田のために大丈夫だって言ったり、池田のために涙を流したりした。
池田のためにできることは全部やった。
池田はよくわかってない。俺が段取りしてあげていることに。
仕事以外の生活が俺にもあるんだ。思春期ぐらいの頃に、そういう思いが募ってきた。当たり前だ。
ある時、食事の手伝いをした。簡単なことなのに、皿を運ぶのでさえ、俺にまかそうとした。その時、ポロッと言ってしまった。
俺?
池田はこういった。
あ、そう。
このやりとりがまずかった。俺の日常が、ガシャっと崩れた。これまで適応していたのがバカらしくなった。
俺は犬じゃない。イタチなんだ。
そう言って、料理の乗った皿を投げつけた。
それは台所に飛んでいき、ガシャんと割れた。
池田は叫んだ。
俺はまた次の皿を掴んで投げた。
池田は叫んだ。
俺は呆れる目をした。

 

部屋の明かりが点滅する。
俺はそのまま二階に上がった。
一階で、皿が割れる音がする。
何も自分で割らなくても。

自室の明かりまで点灯し始めた。
本棚から本が落ちた。
一冊。
破いた。
一枚一枚丸めた。
これからは、それを投げようと思った。