1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

見えない建物

草が生い茂る中に、一箇所だけ背の低いところがある。
周りは膝まであるのに、そこだけくるぶしぐらいなのだ。
誰かが踏んづけたにしては大きい。直径肩幅サイズ。

 

覗かないと分からなかった。
見えないけれど、生き物が動いてる。何をしているか分からないけれど、大きな建築物を作っている。
もうちょっと見ていれば何か見えてきそうだった。でも迎えが来た。また明日ねと言い残し、帰っていく。

 

次の日。また覗きにくる。
範囲が拡大していた。足幅一本、増えている。
相変わらず何も見えないから、こっちから働きかけてみる。
草を引きちぎり、投げる。
ふわっと浮いた。引っかかったみたい。
草はふらふらぶら下がり、落ちたと思ったらまた引っかかる。
建築物は、段になっているようだ。
あ、そうか。
草を次々引きぢぎる。次々投げる。
そうするとみえてきた。草がたくさんまとった、大きな物体。

 

それは、棘の生えた山のような形をしていた。螺旋状に道があって、てっぺんにつながっている。
でも、そこで動いている生き物を見ることはできない。草が動く微かな隙間に、どうにか感じられるぐらいだった。
するとまたお迎え。

 

次は一週間ぶりだった。親が忙しく、連れて行ってくれなかった。
降りると、急いで駆け寄った。
でも、もうなかった。
建物が見当たらない。
代わりに崩された跡がある。
草が散らばっているだけなのだが、不規則に重なっている。
誰だ。誰だこんなことしたの。
見えない生き物の姿も見えない。
座った。腰が落ちた。
そのまま、崩れた真ん中に移動する。
周りは大きな草。丈の長い、高さは頭と同じくらい。

 

きっと、限界だったのかもしれない。
だんだんと大きくしていって、これ以上難しい、だから自分で壊れてしまったのかもしれない。
生き物たちは苦しかったろう。せっかく、何かになると思って作り上げていたものが、自分たちに予告されぬまま終わり始めるから。
一週間の間、それはじわじわ壊れていったのだろうか。それとも一瞬だったのだろうか。
大きくなろうとすることは間違ってなかったんだと思う。でも、そうだな。強いて言うなら、建て方だったかも。
右渦巻きなのがいけなかったんじゃないだろうか。左に、左に下がっていくように作ればよかったんじゃないだろうか。
あの建物は、上を目指すようにして、大きくなっていった。だから、いつしかバランスを崩してしまった。
だから、反対をやってみればよかったんじゃないか。
下に下に。下に下に。
そう言いながら、葉っぱをどけ、土を掘っていく。

 

何も出てきやしない。
あ、見つけようとしてたんじゃなかった。
作ろうと思って、掘っていた。
けれど、形を整えるつもりはない。
とにかく広く、取ってみたかった。
でも、ずっと広げたいわけじゃない。
自分がそこで、冬眠できるくらいのスペースで。

 

ずいぶん掘った。夕暮れになり、冷たい風が吹く。
お迎えが来たみたい。もうここから出られない。地面まで、高い壁が出来上がった。
じゃあ、もうおしまいね。
寂しい気持ちと、やっと眠れるという気持ち、その両方を抱えたまま、身体を丸め、頭を腕に埋める。
キレイな星。
次目が覚めた時は、真っ赤っかな太陽でありますように。