1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】ゴミ箱

人々が歩いている。

熱い蒸気に包まれて。

 

臭いが立ち込める。

人の汗。乾いた草の匂い。そしてゴミ。

 

自動販売機から少し離れた角に、ゴミ箱があった。

とっくに溢れていて、混ざった塊のような臭い。

それが好きな人もいるかもしれない。癖になるような臭い。

 

ゴミ箱は、高架下にある。

車が通り、天井が鳴る。

ゴミ箱は揺れて、ゴミが一つ二つ落ちる。

 

だから、ゴミ箱の周りも散らかっていた。

カラスも寄ってこない。

不思議な雰囲気のあるゴミ箱だった。

男が通りかかる。

タバコを咥え、歩いてくる。

 

虚な目をして、高架下を通り過ぎ。

角にあったゴミ箱をチラ見する。

 

数秒立ち止まり、煙を吸い込む。

吐く。

 

帰っていった。

タバコの吸い殻を、ゴミ箱に落として。

 

ゴミ箱から、煙が出る。

燃え移ることはない。

燃え移るものがない。

空き缶、空き瓶。

それくらいの種類。

 

高架下が鳴る。

ゴミ箱が揺れる。

 

落ちた。

ゴミ箱から一つ。

空き缶一つ。

 

積み重なっているから、ある程度高さがあった。

地面に当たる。

音がなる。

高架下に響く。

 

積もったゴミ袋の周り。

ずっと回収されない周り。

 

ゴミ箱は、箱ではなくなっていた。

ゴミをそこに集めるための、場所でしかない。

 

人を寄せ付けないゴミ箱。

ゴミだけを集めるゴミ箱。

 

今度は別の男が、ゴミ箱にやってくる。

痰が絡んでいるようで、口が動いている。

喉を切るような音がする。

 

彼もまた、ゴミ箱を見る。

構えたかと思うと、吐き出した。

粒が、ゴミ箱に消えていった。

 

どこの空き缶に入ったのか。

選ばれた空き缶。

 

彼は高架下へ向かっていった。

痰が絡んでいた。

 

男がつまづく。

壊れた傘が落ちていた。

蹴り飛ばす。

傘は、ゴミ箱に入らない。

 

雨が降った。

一気に、夕立かと思われた。

 

しばらく降り続く。

天井から雨が漏れている。

高架下の歩道に、水たまりができる。

 

ゴミ箱は野晒し状態。

傘をさしてくれる人なんていない。

 

ゴミ箱を責めるかのように雨が注ぐ。

空き缶一つ一つに、空き瓶一つ一つに、液体を満たしていく。

 

誰がこんなことをしたのか。

雲が怒っているように思える。

 

雷すら鳴らさないで。

ただ水だけを流し込んでいくことで。

 

雨は鳴り止まない。

ゴミ箱の体重が重くなっていく。

 

そして、絶えきれなくなった。

 

大きな音を立て、ゴミ箱は倒れた。

 

中のものが曝け出た。

 

きっとこれも、片付かない。

 

いくら歩道を防ごうが、人はその上を歩く。

 

缶一つ一つを踏んだり砕いたりして、固めてしまう。

 

ゴミ箱なんて元々なかったから。
ゴミ箱があろうがなかろうが、一緒。

 *

晴れた日。

案の定、そこを片付けるものは出ていない。

倒れた筒が、大きなスピーカーのように横たわっている。

 

ネズミが動いた。

 

筒の底にぶつかる。

 

他のネズミがやってくる。

積まれた缶が崩れる。

 

ネズミは閉じ込められる。

親子か、はたまた兄弟か。

 

二人のネズミは、出られそうにない。

穴だらけの屋根。癖になる臭い。