1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

No.4 ゴミにさようなら

         

 

ゴミ屋敷の隅っこに、それはあった。自分の部屋であるというのに、すっかり知らない。

側にあるのにもかかわらず、遠く冷めているところに置いてかれている。

ゴミ袋であることに違いなく、ただ、容量の限界に対して平気と言わんような膨れ具合だった。

緊張しているそれに近づくことが、自身の緊張をも高め、不安定にしていくことを感じた。

歩く膝が床に重しをかけ、体重がどこまで伝わっていくかを確かめていく。

意識は小さく跳ねていくようだったが、突然、滞らない時間が訪れた。

瞳との距離わずか1cm、ゴミ袋が音もなく顔にめり込んだ。

 

飛んできた袋は割れ、「パンッ」という音の代わりに、「ザアァーー」というノイズ音が耳奥から走ってくる。

その騒音は外に漏れ、自分を包み込んで、鼻、口、目に入っていった。

外から入る音と、内から出て行く音が衝突し、皮膚にまたがった螺旋の運動が起こる。

ぐるぐるぐるぐる周りを前輪していった跡を、針で縫っていくように記憶していく。

思いくる様子は、食べて忘れていた物ばかりで、きっと、破れた袋に詰まっていた物たちだったのだろうと、馳せていく。

 

ノイズ音はその節操さを緩め、滑らかな雨音となって、自分が聞こえる世界を湿らせていく。

耳は、水分を吸い、大きくなっていき、自分の部屋の隅々までを覆うようになった。

すると、あちらこちらで、「ボソボソ」という会話がなされていることに気づく。

部屋に敷き詰められたゴミ袋たちが、好き勝手に話していたのだ。

内容は聞きれとないが、それらは確かに声であって、しかし感情は感じられず、紫外線が飛んでいくように交わされていた。

 

部屋にこもりっきりだった僕にとって、そのことは大発見だった。

部屋の真ん中で1人で泣いていたこともあったけれど、それでも自分が食べてきたものは、いつもずっと、部屋いっぱいに満ち満ちていた。

それらは、ゴミ袋に隠れて、いまかいまかと待ってくれている。

僕は、これから開けていくだろうゴミ袋の、一つ目をほどく。

 

(終)

 

 

「ゴミにさようなら」シリーズは、下記からご覧いただけます。

orangebookland222.hatenablog.com