No.2 ゴミにさようなら
前足二本の少し先には、ゴミ袋が分岐道を作っている。
光が袋の壁を当て、波々とうねらせている。
足は待ちきれず、指だけが前に動き始める。
足裏は仕方なくついていくというように土踏まずを凹ませる。
引き返すことだけは許されないという具合に、膝小僧が軋む。
のそのそと身体も流れ始めた。
目はどの道をいくか焦点を動かしているようだが、頭蓋骨の一番重いところが向かいに背中を傾けていく。
左後ろ足がするりと滑り、靴下が履かれていることに気づく。
手袋もつけていて、1ミリメートルの厚みが、床と自分とを挟んでいる。
意識を頭蓋骨に注せばぬるりと四肢は動き、圧迫された一本幅にそろり込んでゆく。
肩すれすれに袋が並んでおり、タイミングでパッと光る半透明には数々のモノが浮かんでいた。
目を凝らすまでもなく、過ぎゆく横や上には写真が張り巡らされているようだった。
鼻の先に袋が破れた天井があった。
ダラリと垂れている詰め物のようなものは、ソーセージだったところ、口が齧ってしまう。
舌が腐り落ちると錯覚し、この世のものではない味が喉に滲み、血を吐いたかと思うぐらいに嗚咽した。
体内の臓器を裏返しに出し切った後、口内は麻痺したまま、味を食感だけにした。
バリバリガリガリ、まだ口に入っていたのは、おそらく自分の歯だろうと、すでに冷静になっている自分がいる。
急に寒くなり、床が冷たくなる。
ドクドク皮膚が内部で踊りはじめ、ステップを踏んでいた。
それらは生まれてから生涯ずっと大事に取ってきた、血管の群れだった。
(続く)
「ゴミにさようなら」シリーズは、下記からご覧いただけます。
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