No.2 ネコの視界
僕がみた夢
目覚めたと思ったら、目覚めていなかった。瞼を閉じたまま、僕は目を開けているような感覚だった。
視界にあるのは、ゴツゴツしたコンクリートであり、ところどころ裂けている。
歩く方向もないまま、ただ歩いていると、何かを吹き出している穴があった。
勢いのぞくと、その穴の奥には、歯車でできたような空間があった。
動力源がどこかわからなかったが、そこから吹き出してくる透明なガスは、エアコンが空調をしている時の匂いに似ていた。
どうやら、人間は立ち入れないところらしい。
僕はどうかというと、足だけは機械であるから、腰あたりまでは突っ込むことができた。
だが、腰から上は入れない。十分な大きさではあるものの、多分入ると鼓膜が破れる。その危険があるかどうかを確かめるために、僕は耳を澄ます。
「。。。。。」
無音だった。でも、これ以上きくと耳鳴りが起きそうだ。
にもかかわらず興味は勝り、この部屋にどこか音がないか、探そうとしてしまう。
無音しかない。無、無しかない。
回っている歯車は、噛み合っておらず、かといってグチャグチャしているのではなかった。ただぐるぐると1人でに、各々が回っていた。
なのにこの部屋は、一つの部屋として存在していた。
存在するだけでなく、微かに、本当に僅かだが、どこかへ動いていっている気がした。
本当に目が覚めた後
目が覚めると、あのコンクリートの面影が天井に映されていた。真上にある照明が、あの部屋の入り口のように思えた。
普段照明をみることがなかったから、まじまじみてみると、周りに結構ゴミが溜まっていた。
それらは産毛のようになり、ぶら下がっていた。
生まれたてのイソギンチャクが、暖かい海流に揺られているような感じだろうか、そんな夢想をしてみる。
そうやって二度寝したいだけなのであるが。
寝れば、またあの夢に入れるかもしれない。そしたら、次はあの部屋に入れるかもしれない。そんな希望もあった。
自分の寝室の特徴
うまく寝るのに肝心なのは、枕である。
枕は枕投げにして使うのではない。枕は、しっかり定位置に置かなくてはいけない。自分の頭の位置を決める大事な供物である。
正直、枕があれば布団などいらないと思えてくる。枕に頭を下げれば、安心感が僕の身体を包んでくれるからだ。
無人島に一つだけ持っていけるとしたら、僕は間違いなく、枕と答えるだろう。
無人島ではきっと暇になるだろう。一番の暇つぶしは何か、それは寝ることである。
「まず何より枕を寝かすこと」
僕の寝室は、枕を中心にできている。
枕がなければ、そこはなんでもない空っぽの部屋になってしまう。
枕が、部屋を起こすスイッチになっているのかもしれない。部屋の明暗を左右するのは照明ではなく、僕の後頭部にある、この枕であるかもしれない。
もう太陽なんかも必要ないのではないか。日光がなくなっても、身体は元気なのである。
「日の光なんて、よく平気で浴びるなぁ〜」と、ポツリ。
枕になる
多くの人は、起きることに重きを置きすぎている。
起きないと生活できないのだろうか。
寝ている時にこそ、生活は起きている。起きている間の生活は、寝ている間を再現しようとしているにすぎない。
もちろん、寝ぼけて生きているということを言いたいのではない。
ただ、ずっと起きているのだけではつまらないと思う。
僕がみた夢は、起きている間にどのように現れているのか、そんなことを考えると楽しい。
もちろん、現実がその通り動いているはずないし、その夢自体ちゃんと覚えてない。でもだからこそ、また寝るのである。
寝るために起きる。起きるために寝るのではなく。
だとすれば、もっと速やかに、寝るコツも身につけておきたい。
枕が夢をみる
枕の話に戻る。
枕は人それぞれであるように、枕もそれぞれである。
起きている間の生活がそれぞれであるように、枕の上で見ている夢もそれぞれである。
いい枕というのは、深い夢を見ることができるものである。
その夢は、よく階段から落ちた夢とか、そんな夢占いに出てくるような物ではない。その日の、自分だけの夢である。
枕は、夢を作り出す道具なのである。
真ん中に頭を置くのか、右端なのか、その少し上あたりなのかで、夢の雰囲気も変わってくる。
枕自体が、夢の種の複合体なのである。
僕たちは、身近すぎて忘れてしまっているだけなのだ。夢のように。
夢が気づく
今度は、夢の話をしよう。
夢は見たいものだと思う。見たくない人もいるかもしれない。でも、そんなこと関係なしに、寝れば夢はみている。
しかし、みんな覚えていない。むしろ、覚えていないくらい深く寝たことを、いい睡眠だとしている。
でも、自分の夢ではないのか。覚えてないとショックではないか。
覚えていなければ、その夢は居場所を失ってしまう。そんな夢は可哀想である。
夢だけは、唯一他の人が奪えない、自分の居場所であるのに。
夢の中であれば、なんだってできてしまう。想像すれば、ある程度具現化できる。そういうことをみんな知っているから、夢を自然にみるのではないか。
毎晩毎晩、各々が各々だけの吹き出しを想像していると思うと、夜はまさしく、夢の世界である。
同時に夢を見ているなら、他の人の夢同士で話ができるかもしれない。僕は残念ながら、まだできていない。
夢をみているとき、何か通じる道があるのかもしれない。もう少し、夢の中で目を凝らしてみようか。
明らかに違うところ。
これまでの風景とは違う、吹き込みがあるところ。
言語化が夢をフラットにする
夢ではなかなか人とつながれないが、言葉では人とつながれる。
しかし、言葉でわかることはどれくらいのなのか。
やはり、それは自分が感じていることの一部である。
言葉というのはハサミだから怖い。感覚という柔らかい生き物は、幽霊のように逃げてしまう。
しかも、ただのハサミではない。オオバサミである。幽霊の上半身を真っ二つに切ってしまうぐらい、言葉というのは恐ろしい。
その生き物は、飛んでくるハサミをその都度避けながら、なんとか生き延びている。
ちょうど、僕の隅にそいつがやってきた。「どうやって避けているんだい」と、聞いてみる。
あのハサミのシャキシャキって音がしたら逃げるのさ
ハサミは音であり、音だからやはり言葉なのだ。
じゃあ、君たちは言葉を持っていないのかい、そう聞きたくなる。
だって今、話しかけてきたじゃないか。
実際に聞き返すと、言葉は言葉でも、ハサミとは違って別の音がするのだという。
もちろん、ちゃんと許可をもらってるからさ
彼らの言葉にも、やはりルールというのがあるらしい。しかし、僕にはまだ教えてくれないようだった。
柔らかい生き物はどこにいるのか
何やら訳のわからないものと話していると思っているだろうが、それはみんなが知っているものだし、みんなが大事にしているものである。
それが、ネコである。ネコは、柔らかい生き物であり、夢の延長線上にいる。僕は、そいつをいつか、自分の枕元に引き寄せたいと考えている。
「誰か拾ってください。」
そんなダンボールをみつけたら、僕はすぐ頭を突っ込むだろう。
ダンボールにいるそいつは僕に話しかけてくる。
「僕を買うだけの責任は持てるのかい?」
「責任は持てるよ。」
「僕は君の隙をついて逃げ出しちゃうかもしれないけど。」
「逃げたらまた捕まえるさ。僕が代わりに段ボールに入ればさ、君も心配してきてくれるだろう。」
そいつは納得したようなしていないようなため息をついた。
また、僕を見て口を動かしてくる。
「でもね、これだけは知っておいてほしい。僕は誰のものでもない。でも、あなたは僕をものにしようとする。だから逃げる。逃げられたくないなら、僕が最低限であることをわかってもらえないと。」
最低限。。。それは何についてのことなのか。
これ以上聞くと逃げられそうだったので、とりあえず黙った。
僕の目の前には、ダンボールがある。その中には、真っ暗なうごめく何かが、あくびをしている。
そいつの寝室は、そのダンボールである。だから、もしそいつだけを取って自分の寝室に入れても、そのダンボールの範囲だけは、確実に確保しなくてはいけない。
ダンボールは具体的なものでなくていい。部屋の隅とか、天井の隅とか、とにかく、隅と呼べる空間を演出できればいい。
寝室に枕を置くように、ネコにも枕が必要だった。
「ネコの歩き方」シリーズは、下記の欄からご覧いただけます。
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