No.3 ゴミにさようなら
トンネルは暗くて怖いが、自分の部屋なら暗くても怖くない。
たとえ、ゴミ袋が頭の上でアーチを作り、ある種のトンネルにいるとしても。
目の前には、ゴミ袋から出てきたソーセージによる嘔吐で、内臓までもが転がり落ちている。
内臓をみる機会がないものだからよくよくみてみると、どれもプラスチックのような表面に覆われていて、袋のようだった。
袋同士は端と端がくっつきそうになっていて、やろうとおもえばもう1人の自分ができそうだったが、本物っぽくなりそうな気がしてやめた。
横たわっている臓器のうち、左腎臓だけが、ピチピチと跳ねている。
そいつは他の仲間たちから離れようとしている。
僕は手でそっと掬い、腕でゆっくり持ち上げ、手のひらでにぎにぎしてみた。
ちぎれ飛んで切断されている管が、トンネルの向こうへ向こうへ、運んで、運んでと言うように揺れる。
奥がずぅうんと待ち構えている気がした。
残っている身体の一部を置いていくのは気が引けたが、握ってしまった腎臓の方を裏切ることだけはしたくなく、煮え切らない思いをこぼさないよう身体を運んでいく。
真っ暗なまま視界は変わらず、素朴な黒さがちり紙となって目に張り付いてくる。
アングルには黒斑がぽつぽつ、小雨が当たる程度の軽さで増えていく。
見えないところが見えるところの比率を上回り、どちらがみている世界なのかわからなくなってくる。
これより前進するには選択をしなければいけない状態に落ち入り、まぶたを閉じる。
勢いよく閉じたせいか、上のまつ毛と下のまつ毛が交差して絡みあい、固定されてしまった。
眼球を一生懸命動かしても全て空振り、コロコロするだけである。
まぶたに集まる繊細な感覚は、次の感性を生み出そうとしていた。
薄い皮に、風当たりを、ほたほたと着地してくる蒸気を感じるのである。
さりげなく、別にこちらを誘うこともない感触は、自然に心地をよくしてくれる。
近づけばもっとよくなるのかはわからないが、発生元は確かにある。
僕は、たまたま迷ったようなフリをしながら、まぶたをとがったセンサーのように使って辿っていく。
ひどく集中力が必要で、それも、空気のほこり一つ一つに注意をひろくしなければならなかった。
まるでテレビのチャンネル全てを同時にみながら同時に理解している感じで、このままだと破裂しそうになってしまい、すかさず、一つだけの副音声を探す。
あらゆる方向に放散していく蒸気の動きの中かから、乾燥した風をみつけなくてはならなかった。
そしてみつける。そこには、パンパンに膨れ上がったゴミ袋があった。
(続く)
「ゴミにさようなら」シリーズは、下記からご覧いただけます。
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