1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

No.1 つついた世界を散歩して

最初は、ほんの気まぐれで作った世界だった。

その当時の宇宙には何もなく、みるにつまらなくなったことがきっかけだった。

テキトーに、人差し指でチョンっとつつく。すると、凹みが生まれ、円となって、世界がプカっと浮かんだ。面白くなければ、またつついて消せばよい、そんな雑な考えのまま、頬杖をついて眺める。

最初はそれこそ何も変化がなくつまらなかったが、だんだんウニャウニャした生命というカタチが生まれてきて、ずっと同じカタチのものや、違うカタチになったりしてくる。これが意外に飽きない。気づけば、首を伸ばして覗き込んでいた。

 

ただ、覗き込んでいれば、世界の調子が悪くなっていく気がした。なくなりそうなカタチが出てきたり、カタチの変化が鈍くなったりし始めたからだ。どうも、エネルギーの流れが悪くなっているらしい。世界の言葉では、地球温暖化というそうだ。

それでは困る。せっかくの暇つぶしが壊れてしまうのは惜しい。

まず、この世界のカタチがウキウキしている様子は、格別だ。こちらもウキウキしてくる。

あるいは、カタチが一斉に変化することもあり、これも見もので、心が洗われる。

また、カタチが変化し損ねてグズっているときも、これはこれで見つめてしまう。応援したくなる。ただ、勢い余って声かけすると、風邪というものが吹いて、体調が悪くなるそうなので、黙っているけれど。

他にも、少数派のカタチというのがいて、この世界の行く末を占うのにもってこいだ。うちでは、賭け事のネタになっている。

最後に、予想できるカタチの変化というものもあり、分析しがいがある。これも、賭け事を面白くするスパイスになっている。

 

最近、その賭け事に負けてしまった。開始期限と終了期限を決めて、終了するときに、どれくらいウキウキしているのかを言い当てる遊びだ。一番うまく言い当てたものが勝つことになる。勝利のコツは、どのカタチがカギを握っているかの見極めだ。

このカタチの変化は、ある程度予想できるのだけど、機を逃すか逃さないかは、周りの状況に委ねるしかない。どれだけ変化の行く末がわかったつもりでも、うんともすんともいわないことだってある。今回負けたのだって、きっとそれが理由だ。

でも、本当のところはよくわかってないのである。どこで流れが変化したのか、一緒に賭けた自分の仲間も、ピンときていなかった。その意味でいうと、だんだんこの賭けはレベルの高いものになってきている。予想できない結果に曲がることがどんどん増えてきたからである。

盛り上がりを見せるのはいいのだが、自分が作った世界について、自分が一番知っていないという事実は、結構なショックだった。

なぜ誰も知れなかったかの理由はわかっている。それは、一辺倒の見方をしていたからだ。上から覗いていたからだ。だとしたら、それ以外の見方が求められる。

つまり、この世界に入ってみることになる。

そこで僕は、必要な秘密を見つけ出さなくてはいけない。今度は勝つために。

 

僕は、しばらく自分の世界を散歩することにした。

しかし、秩序は保っておきたい。変なことはしない。

やることは、ただただ、何らかのカタチになって、観察するだけである。

植物や動物、気候や言葉など、どんなカタチにも紛れられるが、人間というカタチを選ぶことにした。人間は、予想のやり玉によく挙げられるからだ。

 

(続く)