1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】一人キャンプ

排水口があった。周りの水が流れ込んでいく。足元をすり抜けて、身体を置いていって。
葉っぱがいくつか浮かんでいった。黄色や赤色、形も色々。
ぶつかったり、重なったり、離れたりしながら、入っていく。
勢いもあるから、液体に皺を作っていて、波も立っていた。

 

洗面台から顔を上げる。空は秋の葉に覆われていた。息を吸い、新鮮な空気を満たす。こういう時、手を広げたくなるが、恥ずかしくてやめた。
ご飯が炊けたかどうか確認しにいく。鳥の鳴く声が、屋根の下では柔らかく聞こえる。
火がハンゴウの底にあたり、触れたくなさそうに燃えている。中を開けると、煙が立ってきて、粒が一つ一つ見えた。

 

おかずの支度もできたところで、昼食とする。誰もいない、木に囲まれたこの場所で食事。人やビルに囲まれている時とは大違いだ。隙間風が通り、気持ちの悪い部分を持っていってくれる。本当に心地いい風だ。はぁーっと、息を吐き、その温度さえ肌で感じられる。
見たところ、どれも同じ木だ。種類とかそんなのはわからないけれど、全部同じもの。でも、統一感はない。一本一本が根を生やし、空に向かっている。
かのように見えた。違うのだ。奥に、ねじれている木があった。

 

目を擦り、はっきりするのを待つ。見えているはずなのに、風が視界を邪魔する。透明なのに、焦点がズレる。木が揺れるからか。ねじれにうまくあっていかない。
湿気た匂いがした。行こう。誘われた。

 

歩いていくにつれ、ねじれは一本だけではないことがわかった。二本、三本、四本と、それらは天井を作っていく。
何本かを潜るたびに、葉っぱが落ちて、顔にあたる。変に粘性があって、くっつく。次第に面倒くさくなって、ついたまま放置する。
登っていく。平坦だと思っていた道に、角度があった。風が吹かないところに来ていた。
身体中が葉っぱだらけになったところで、広場に出た。木たちは互いに助け合って、枝を巻き合わせ、これからもっと絡み合おうとしている。
僕はその真ん中に移動し、三角座りした。

 

木の音を聞いた。伸びていく音。皮にひびが入り、メキメキと長くなる。僕は背伸びしても元に戻ってしまうのに、彼らはずっと伸びていける。ちょっと俯いてしまった。

 

いくらか寝ていた。葉っぱの服が着心地良かったからからもしれない。
枝が、僕の頭上まで来ていた。取り囲もうとしていた。捕まえようとしていた。
僕は逃げなかった。襲いかかってくる速度ではなかったから。守ってくれる速度でもなかったけれど。
枝は、自然に僕を掴む。腕を取り、お尻を取って、背中を支える。
しかし、ここからが問題だった。
木同士が、僕を取り合うのだ。
僕の身体は一つしかない。いつも縮んでしまう。だから、両端から引っ張られても、どちらにもいけない。
おまけに痛い。痛い痛いというと、彼らはびっくりして、取り合うのをやめる。でも、ちょっと風が吹くと、それを忘れたかのようにまた始まる。
僕はいよいよ、いい加減にしてくれと思った。

 

彼らは考え方を変えた。こっちに持ち込むのではなく、ここで、つながればいいと考えた。
僕は枝につながれ、自由が効くようにゆとりをもたせてくれた。木で囲われた範囲でだけど。
そこでは、空を飛ぶことができた。枝が支えてくれるから、そんなこともできてしまう。
腕を上手く使えば、一人縄跳びだってできる。二重跳びなんて楽勝だった。
でも、カラスが鳴くと、寂しくなった。家に帰りたいと思った。
でももしそんなことを言ったら、彼らは僕の身体を引きちぎってしまうかもしれない。
だから朝だ。彼らが寝ている朝に、掴んでいるのが緩むから、それで抜け出そう

 

朝になった。息が冷たい。枝に触れないよう、空に向けて吐いていく。
ご飯、食べ損ねたっけ。思い出す。鳥さんたちが食べてくれてたらいいけれど。
ゆっくり、身体を起こす。手を細くし窄め、丁寧に解いていく。足も真っ直ぐにして、回転させながら外していく。最後はお腹。垂直になって、左右に揺らして降ろしていった。
枝はついてない。広場から出ようとする。
風が渦を巻いた。僕の行手を阻む。
すると、身体の葉っぱが風に絡んでいく。それらは重なり大きくなって、一枚の画面を構成する。それはいくつもつながって、大きなパノラマを作った。
映っていたのは、草原の風景。リスがやってきて、木の実を落とした。そこから芽が生えて、ゾウに踏まれてしまう。それでもまた次が生えてきて、今度は雪が積もって枯れてしまう。
しばらくして、雪が全部溶け切った時、芽がたくさん生えていた。そして一気に伸びていき、茶色の皮を纏い、枝を生やしていった。
そうか。これは僕が知っていたことだ。
木の隙間に、真っ暗な映像があった。きっと何かが再生されているが、チャンネルが合っていない。僕は足元にある枝の先を掴む。これから、差し込み口を探しにいかなくてはいけない。
僕はその方に歩いていった。

 

ご飯が置いてあるところまで帰っていた。カピカピだった。なんだ、誰も食べてくれなかったのか。
そうだ。手元を見る。握っていたのは小さな枝一本。
でもこれだった。
僕は、ご飯とその枝をリュックに入れ、下山した。