【短話】雰囲気販売
「お会計でお待ちのお客様どうぞ!」
明るい声が、店内に響き渡る。列が並ぶ。
「初恋の雰囲気が一点で、二千九百四十円になります。カードでよろしいですね。」
「港の雰囲気とカレー屋の雰囲気の二点で、四千七百六十八円になります。現金ですね。」
ここでは、雰囲気を販売している。
今やどこの世界でも、満員電車の雰囲気が蔓延してしまい、他の雰囲気が味わえなくなってしまったのである。
自然のある場所に行っても、そこは植物がたくさん生えて窮屈に感じるし、家庭の中でも、人がいて窮屈なのである。
だから人々は、その窮屈とやらから息抜きするために、色んな雰囲気を買い求めるのだ。
それは手のひらサイズの、ふわふわした輪郭のない風船のような形をしている。
それを買うだけでいい。
後は捨てていい。
なぜなら雰囲気は実際、直ぐ無くなるものだから。