【短話】塾講師
今日も生徒は一人。
俺は教室入る。
だから机は一つ。
椅子も一つ。
なのに黒板はだだっ広い。
俺が教える時は、その人の知る範囲でしか教えない。
こんな黒板、必要ないのだ。
自分の両手を広げたぐらいの幅の黒板でいい。
そこに、チョーク一本だけでいい。
黒板消しは必要ない。
袖で拭って消すからだ。
今日はどれくらい袖が汚れるだろうか。
俺は汚すのが好きなので、あえて白いシャツを着てくる。
ボタンがついていると黒板が痛むので、ボタンはあえて外してある。
おかげで、袖がだらしない男になっている。
昨日はさして汚れなかった。
本当に汚れる時は、拭うたびに黒板が白くなっていく。
白板だ。
俺は本当はホワイトボードがよかった。
ツルツル滑るあの感覚が好きだった。
黒板なんてまどろっこしいのは嫌いだ。
あれだけギザギザしているのなら、いっそのこと土に書いた方がマシなんじゃないか。
生徒はそう、俺一人である。