【短話】冷めた月
見上げると、月が雲に隠れていた。
いや、これは、雲が月を隠してしまったに違いない。
そう思って、僕は雲を睨んだ。
すると雲はちょっとびびったのか、薄くなった。
月の光がさっきよりはマシになる。
それでもまだ、雲はでずっぱりである。
僕はため息をつきながら、そばにあった木に登り、もっと近づいて、「おい。」と、怒った口調で注意した。
雲はさすがに恐縮したようで、急ぎで払いのけていった。
ようやく、月とご対面できる。
僕は今までのイライラなんて忘れて、目をまんまるにして待っていた。
すると、月は真っ白になっていたのである。
月の持つ、あの黄色の輝きはどこかに消えてしまったのである。
もしや、月は冷めてしまったのかもしれなかった。
もしや、雲は月を温めていて、僕が知っているあの輝きは、雲が作り出していたのかもしれないのである。
どうしよう、雲一つない満天の星空。