【短話】一房の髪
疲れた。
歩いている人が、みんな俯いているようにみえる。
首の骨がぐっと突き出、顔が右左に揺れている。
それなのに足はいたって元気にしていて、踵が地面を踏み込んでいる。
彼らは、いつまでも薄暗い駅の光を頼りに歩く。
彼らには腰がない。
腰は、何かプラスチックの板のようなものが挟まっているだけで、上半身と下半身とを互い違いにずらしながら、なんとか進んでいるようだった。
その中に、一際進んでいくものがいた。
ゆらっとゆれる木々を抜けるように、小鳥さながら、間を縫っていく。
彼女は白い帽子をかぶり、青色のリュックサックを背中にぴたりとつけながら、両手の振りを足の動力に変換していた。
帽子からは一つに結んだ髪が垂れ、その一房が、この広場の埃を絡め取っていく。
彼女の後ろ姿は、周りを影のようにしながらも、むしろそこに紛れ、薄濁る光に進んでいった。