【短話】回復しない爪
パキッと割れた。
左手の小指の爪だ。
台所で食器を洗っている時、なぜか割れてしまった。
最初は気づかなかった。
食器を片付けていると、ふと痛みを感じて、ああ、と思ったのだった。
とりあえず、絆創膏を貼って、応急処置をとる。
先っぽから白いところに届くか届かないかぐらいまで線が入って、開きはしないけれど、指先がどうも落ち着かなかった。
仕事がデスクワークだったため、これには困った。
アルファベットのaを叩く時、うっとなる。
それを繰り返しているうち、打てるようにはなってきたのだけど、かえって指先の感覚が麻痺していくような気がした。
病院に行かずに放置したままだったせいか、まったく戻らない。
他の爪は伸びるのに、その爪だけ伸びないし、くっつかない。
成長が止まってしまったみたいだ。
それか、これからこの指は二本に分裂するのか。
想像すると、ちょっとゾッとした。