1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

【短話】草原の晴れ

晴れた日のこと。
お日様が焼いた。
座っている側で、草がしなっていく。
暑い。
オゾン層が一枚剥がれてしまったみたい。

 

紫色に空が押し寄せてきて。
飛んでいる鳥が低空飛行して。
木はテッペンを垂れ下げていて。
ベンチに誰かが座り始める。

 

歩く元気がなかったから、這って向かう。
ベンチの人は、座れない私をじっとみる。
手を差し伸べてくれるわけでもない。
ちょっと笑って肩を揺らして。
足元にいる私を無視して。
さっきの場所にいた蝶々を眺めている。
黄色の蝶々。
ピンク色に染め上がっていく蝶々。

【短話】ヒーロー

画面に登場したのは、一人のヒーロー。
背後の爆発、靡くマント。

 

勢い強過ぎたのか、マントが顔にかかる。
なかなか剥がれそうになくって、それでも登場ポーズを決めていて。
なんだかかっこいいって思った。

 

呼吸はできてるのかしら。
あ、でもマスクで確保されてるか。

 

果たして、隠れたマスクから何が見えているのか。
赤くて薄い生地。その奥の黒くて薄いプラスチック。

 

まあ何も見えてないでしょ。

 

風が落ち着き、マントが外れる。
とってもダサいポーズでした。

 

 

【短話】ピーちゃん

手を伸ばし、胸いっぱいに吸う。
ここはとっても豊かなところ。
みんながいて、一人ぼっちにならないところ。
ピーちゃんが声をかけてきた。

 

ねぇ、一緒に遊ぼうよ。
えー、何するー?
うーん。トランプ!
お、いいねいいね、トランプトランプ。

 

葉っぱをいくつか用意して、地面に丸を書く。
ピーちゃんが手札から一枚置いた。
私も真似て、一枚置く。
ピーちゃんは考えながら、次の一枚を隣に。
私も自分の隣に置いて。

 

あっ。

 

ピーちゃんが言うと、四つの葉っぱを線で囲ってしまった。

 

あ〜。

 

私は、やられたみたいな反応をする。
ピーちゃんは喜んで、全部を手札にする。
次は私の番。
一枚を半分にちぎって、小さくなった円の両端に並べる。
ピーちゃんは、やるなぁ〜と、ニヤッとした笑みを浮かべる。そのままパスした。
次の一手。これが肝心なことのように思われた。私は、一枚を四つにちぎり、一旦真ん中に置いた。
そこから、一緒に配置を考える。
でも、これがなかなか定まらなかった。
既に両端に二枚あるのに、四つを加えるとなると、いいバランスが見つからない。
その時、私は閃いた。
別に、円の中に入れなくてもいいのではないか。ただ、円の外だとダメかもしれない。
なら…
四つを、円の縁に並べた。尖った先がクロスで交差するように。
ピーちゃんはぐわぁっと声をあげ、後ろにすっ転んだ。
勝負は決まったみたい。

 

お昼休みだった。
ピーちゃんは自分の場所に戻ったかと思うと、積み木でさっきを繰り返していた。
よっぽど悔しかったのかもしれない。私、本気出しすぎちゃったかも。
ちょっと反省する。

 

今日、ピーちゃんの迎えは早い。いつもだったら三時なのに、この時間に来ると電話があった。

 

まあ、今日も満足に遊んでくれたかな。

 

太陽の光りが部屋を包む。
窓を開ける。
風が吹いてきた。
門には、お母さんの姿が見えた。

 

ピーちゃんが、どこかに行ってしまう。

 

お母さんが部屋に来る。
挨拶をする。今日はこうだったんですよと、ざっとお話し。もっと話したかったけど、別の子が泣き出してしまって、よろしくお願いしますとだけ伝える。

 

ピーちゃんは、片付ける準備をしなさいと言われ、しぶしぶしている。

 

このまま、ずっといてくれたらいいのに。

 

なんて思ったり。

 

子どもをあやしている脇で、ピーちゃんが周りを窺っている。
お母さんは先に部屋から出て行った。
ピーちゃんはその隙に、積み木を一個、バックに入れたのだ。
手際の良い犯行。慣れてるな、さては…

 

お母さんの手を握られ、門へ向かっていく。
窓から眺める私。

 

ピーちゃんが、門から曲がってしまう。
すると、ピーちゃんが振り向いた。
バックから出したのは、さっきの積み木。
私に見せつける。

 

私は、グッとポーズで返事した。

 

【短話】扉

差し迫っている。
もうすぐ〆切だというのに間に合うか。
気づけば朝が来ている。
寒かった空気が部屋から出ていく。
でも、押し入れの空気は出ていかない。
作業を一旦やめ、押し入れの前に。
額を扉ギリギリに近づける。
中の物音を聞く。
ガサゴソと、布団の中で動く音。
口がにやけてしまった。
私は飼っている。
手を表面に当て、中の温度を感じ取る。
ここの部屋よりは暖かい。
よかった。
扉をさすり、荒い紙質を確かめる。
一階で物音がした。
多分母親だ。
朝ごはんを作っている。
お弁当だろう。
トイレの音も聞こえた。
きっと父親。
母親が起きたから、一緒に起きた。
また寝るに違いない。

 

二人とも、私が起きていたとは知らない。
私は勉強机の前に相対していた。
誰にも邪魔されない時間が必要だった。
九時に部屋に戻り、十時から始めた。
間の一時間は、押し入れの様子を見た。
とても静かにしていた。
いるか心配になり開けようとも思った。
でも、それは気の焦りだと思われた。
表面に耳をすませば、ちゃんと聞こえる。
そこにいると分かれば、もう安心だった。
歯磨きも済ませてあるし、準備できてる。
机の引き出しをあけ、紙を取り出す。
卓上ライトを調整する。
いや、今日は月明かりでいいや。
ライトを消し、カーテンを開ける。
思ったより眩しい。
ふすまがガタッと揺れる。
喜んでいる。

 

部屋の温度に色が加わった。
白いシートの壁に黄色が溶けていく。
押し入れの隙間に黄色が入っていく。
中の空気と入れ替えだ。
青色が出てきた。紫色に近い。
その様子を見て、鉛筆を手に取る。

 

夢中になると時間を忘れてしまう。
時計をみると三時。月はまだ二時なのに。
床は紫色に浸っていた。
ぶら下がった足をお尻にしまう。
背筋を伸ばし、再開する。

 

    ***
 
あの子、起きてるのかしら。
炊飯器のご飯をチェックする。
えー、今日は早めに起きれたから。
ネギを取り出し、刻み始める。
お湯が沸いた。
白湯一杯、茶葉を入れる。
卵を割って、ネギと混ぜる。
卵焼きが出来上がり、冷凍を取り出す。
前500wで微妙だったので600w。
袋から取り出し、レンジに入れる。
ほうれん草を炒め、ベーコンも。
匂いに駆られてつまみ食い。
今更だけど換気扇を回す。
お弁当箱を取り出し、詰める。
ちょっと溢れてるけどいいか。

 

テレビをつけるとまだ6時だった。
早すぎた。
紅茶飲んで一服一服。
この時間が一番好きかも。ニヤける。
画面に俳優が出ている。
演じる気持ちみたいな話。
他の参加者が頷く。
私は首を横に振る。
なんたってゲストだもんね。
スマホをチェック。
夫からラインが来ていた。
帰り遅くなる。
了解〜。鍵開けとくから〜。

あ、あとね...
のところで、私は寝てしまった。
いつ頃帰ってきたのか知らない。
でも起きた時、側にいたので安心。
あ、鍵。
扉の鍵を閉めにいく。
今日は新聞お休みっと。
毎日、忙しいものねー。
手に取ったチラシを眺める。
感謝セールとかで、スーパーの特価。
白黒印刷で、お金なかったんだろう。
右端に大きな、特大のマグロ。
安いのか高いのか分かんない。
衝撃!みたいな文字。
真面目な奥様方は、衝撃!するのだろう。
食べたいかなー。
まあ、行って考えよ。
エプロンを外し、洗濯機を回す。
量が多いので、液体も多め。
ピッピー。
ぐるぐる回り始める。
窓をみる。出勤する人たちの姿。
今日も、何事もありませんように。

 

   ***

 

おはよー。
おはよー。今日は早いのね。
お母さんだって。
え、この番組もう終わりかけじゃん。
あー、若手のね。大したことなかったよ。
えー。顔がいいんだから顔が。
顔はいいけど、口だけって感じよ。
それはいいの。見込みあるから。
誰よ。
ファンよ。

 

椅子に座る。
テレビを見たり、見なかったり。
パンを食べ、お茶を飲む。

 

洗濯機が止まる。
取り込みに行く。
これから干さなくちゃいけない。

 

歯磨きして、制服に着替える。
今日も学校かぁ。

 

洗濯物をカゴに入れる。

 

バックを抱え、靴を履く。

 

お弁当を渡した。

 

少し立っていた。

 

どうしたの?

 

ちょっと外寒かなぁと思って。

 

昼から暖かくなるわよ。

 

そう?

 

そうよ。

 

ふ〜ん。じゃあ、行ってきます。

 

はい。行ってらっしゃい。

 

扉が動く。

【短話】店

これいくら?
大した値段じゃないよ。
でも、みるからに高そうじゃない。
いや、他のお客さんもそういうんだけど…
意外とそうじゃない?
そう、そう。
もし、もしね、あなただったら欲しい?
それゃ…そうだ。
今、迷ったよね。
いえ、買った時の喜びを想像してました。

その時、人が割り込んできた。
これください。
へい、どうぞ。
あれよあれよという間に買っていった。

ほう。買うんだ。
買うんだよ。
人によってはね。
いや、あなたも欲しいよきっと。
でも、あの人はどうなの。
ええ?
もうちょっと迷った方がいいかと思った。
その是非は言えないなぁ。
でも、お金を使うんでしょ。
ええ。
だったらちょっと考えるべきじゃない。
いやきっとあの人は、前から考えてた。
考えてた?
ああ。以前から何回も通ってたよ。
ここを?
そう、それも昨日からかな。
それ、私より迷ってるってことじゃん。
ああ。かなり迷ってた。
なんか、買った方がいい気がしてきたな。
お、買います?別に買わなくてもいいよ。
買います、買うよ。
はーい、毎度あり。

家に帰り、早速使ってみる。
結果、全く使い物にならなかった。
私は怒り、朝一番、市場に向かう。
すると、店はテントを畳んでいた。

ねぇ。
うん?あー昨日の。
全然これ、ダメだったんだけど。
えー、そうなんですかー。
いや、そうなんですかじゃなくって。
ええ、ええ。
どうしてくれるの?
どうしてくれるのったって、ねぇ。
弁償してくれる?
弁償って、あなたが使ったんでしょう。
何?こんなものを買わせるのが悪い。
それはね、使い方ですよ、使い方。
知らないわよそんなの。
じゃあ、買わなきゃよかったね。

私は怒り、投げつけた。
店主は避け、地面にあたり粉々に。
周りの人たちが見つめた。
私と店主も見つめた。

じゃあ…買うから使い方教えてよ。
おお、そうきますか。
何よ、もう買わないわよ。
あのーその、申し上げにくいのですが。
ん?
もう売り切れちゃいまして。
は?
いやだから、さっき全部売れたんです。

立ち尽くす。
これまでの気苦労が台無しになった。

あのーお客さん、大丈夫ですか。
もういいわよ。疲れた。
そうですか。
もういい。
あの、教えましょうか。

使い方。

店主は部品を拾い上げ、説明した。
壊れてるのに。だから、わからないのに。

見えない建物

草が生い茂る中に、一箇所だけ背の低いところがある。
周りは膝まであるのに、そこだけくるぶしぐらいなのだ。
誰かが踏んづけたにしては大きい。直径肩幅サイズ。

 

覗かないと分からなかった。
見えないけれど、生き物が動いてる。何をしているか分からないけれど、大きな建築物を作っている。
もうちょっと見ていれば何か見えてきそうだった。でも迎えが来た。また明日ねと言い残し、帰っていく。

 

次の日。また覗きにくる。
範囲が拡大していた。足幅一本、増えている。
相変わらず何も見えないから、こっちから働きかけてみる。
草を引きちぎり、投げる。
ふわっと浮いた。引っかかったみたい。
草はふらふらぶら下がり、落ちたと思ったらまた引っかかる。
建築物は、段になっているようだ。
あ、そうか。
草を次々引きぢぎる。次々投げる。
そうするとみえてきた。草がたくさんまとった、大きな物体。

 

それは、棘の生えた山のような形をしていた。螺旋状に道があって、てっぺんにつながっている。
でも、そこで動いている生き物を見ることはできない。草が動く微かな隙間に、どうにか感じられるぐらいだった。
するとまたお迎え。

 

次は一週間ぶりだった。親が忙しく、連れて行ってくれなかった。
降りると、急いで駆け寄った。
でも、もうなかった。
建物が見当たらない。
代わりに崩された跡がある。
草が散らばっているだけなのだが、不規則に重なっている。
誰だ。誰だこんなことしたの。
見えない生き物の姿も見えない。
座った。腰が落ちた。
そのまま、崩れた真ん中に移動する。
周りは大きな草。丈の長い、高さは頭と同じくらい。

 

きっと、限界だったのかもしれない。
だんだんと大きくしていって、これ以上難しい、だから自分で壊れてしまったのかもしれない。
生き物たちは苦しかったろう。せっかく、何かになると思って作り上げていたものが、自分たちに予告されぬまま終わり始めるから。
一週間の間、それはじわじわ壊れていったのだろうか。それとも一瞬だったのだろうか。
大きくなろうとすることは間違ってなかったんだと思う。でも、そうだな。強いて言うなら、建て方だったかも。
右渦巻きなのがいけなかったんじゃないだろうか。左に、左に下がっていくように作ればよかったんじゃないだろうか。
あの建物は、上を目指すようにして、大きくなっていった。だから、いつしかバランスを崩してしまった。
だから、反対をやってみればよかったんじゃないか。
下に下に。下に下に。
そう言いながら、葉っぱをどけ、土を掘っていく。

 

何も出てきやしない。
あ、見つけようとしてたんじゃなかった。
作ろうと思って、掘っていた。
けれど、形を整えるつもりはない。
とにかく広く、取ってみたかった。
でも、ずっと広げたいわけじゃない。
自分がそこで、冬眠できるくらいのスペースで。

 

ずいぶん掘った。夕暮れになり、冷たい風が吹く。
お迎えが来たみたい。もうここから出られない。地面まで、高い壁が出来上がった。
じゃあ、もうおしまいね。
寂しい気持ちと、やっと眠れるという気持ち、その両方を抱えたまま、身体を丸め、頭を腕に埋める。
キレイな星。
次目が覚めた時は、真っ赤っかな太陽でありますように。

【短話】分岐する道

 ここから道が分岐している。二本どころではない。四本、五本だ。
 どれを選んだら正解か。そんなことを考えている暇はなかった。
 足はもう行き先を決めていた。後は頭が許すだけ。
 しかしそれがうまくいかない。時間が差し迫ってきているというのに、踵が動こうとしない。
 前のめりになろうとするほど、後ろに体重がかかってくる。
 立つところだけ凹んでいる。
 でも自分だけではなかった。
 分岐する手前辺りに、同じような足跡がいくつもある。
 踵の方だけ凹んでいる、足跡。
 サイズはまちまちだった。大きい凹みもあったし、小さい凹みもあった。
 深さも違った。この人は本当にギリギリまで迷ったんだなっていうぐらい深い人。反対に、浅くって、もう先に行っちゃったんだなって人。
 自分はかなり迷う方に入ってきている。足が地面に張り付いているのではないかと思う。
 このまま時間切れで食べられてしまうのは嫌だ。
 足から動かそうとするからいけないのかもしれない。
 前かがみになって、手をつく。
 地面を掴み、身体を前に持っていく。
 ダメだ。足は動かない。砂で手が汚れただけだ。
 しゃがみ込んで考える。空を見て、後ろを振り向きそうになる。
 見てはいけない。見たら、即行で終わり。
 いっそ見た方が楽か。ギリギリまでこうしている必要があるのか。
 向こうへ続く道は、ここよりずーっと細かった。遠くを見れば見るほど、どれも細くなっていく。
 それぞれ雲が浮かんでいた。どれを進めど、あのふわふわした塊を通過するのである。
 浮かぶ、という言い方は違ったかもしれない。限りなく地面に近いところに落ちている。浮いている。
 膝が軽くなった気がした。それとともに、足裏が外れていく。
 あそこに飛び込んでいきたい。そう思った。どれでもいい。きっとどれも同じで、入ってしまえばこっちのものなのだ。
 よくみれば、雲同士は端っこでくっつきあっていた。
 やっぱり、あいつらはみんなで一つなんだ。
 筋肉が疼き始めた。身体を動かそうとしている。
 脳もいよいよそれらを制御できなくなっている。あと一息、もう一息なのだ。
 ヴぁ!っと叫ぶ。力を入れた。もう一度、叫ぶ。
 撒かれた唾。小さく水滴となって残る。
 向こうの方から、それぞれ小びとがやってきた。
 近くまで来たと思えば、その水を両手で掴んみ、後ろのカゴに入れた。
 結構な量だったので、みんなあくせく働いた。
 一匹がこちらを不思議そうに眺めている。首を傾げた。
 頭の後ろに誰かいる。乗っかっていた。
 いつの間に登ってきたのか。知らぬ間に張り付いていた。
 痛い。ナイフみたいなものが首に突き当てられ、そして、ゆっくり、それを動か…
 がっと掴んだ。そいつも同じ小びとだった。ただ、目の穴が抜けていて、手には鋭い刃物を持っている。
 何やってたんだ!向こうに投げる。
 立ち上がったらニヤリと笑い、今度は他の小びとたちを襲い始めた。
 彼らは切り込みを入れられ、次々と萎んで消えていく。カゴだけが残る。
 そいつは目の前に来て、こちらに向かって笑い始めた。
 掴み、ぎゅっと握る。このまま潰してしまおうか。
 すると、その口から音が流れ始めた。聞き取れない。お経のようだったが、呪文のそれに近い不気味さがある。
 なら、一音残らず記憶してやる。復唱を始める。
 意味はわからないが、音は後ろに引っ張る引力を持っていた。
 この音が鳴り止む時、時間切れになるのだ。そう確信する。
 ならば。こっちの速度を上げていく。
 そうして次第に追いつき、いよいよ抜かしていった。
 そいつは息切れをし始め、言葉が途切れ途切れになる。
 その隙に、口から畳み掛ける。言葉にならない音を注ぎ上げる。
 そいつはいっぱいになってしまった。身体が膨れ上がる。
 あとは、これを向こうに転がしていけばいい。
 足が離れた。ようやく抜け出した。
 もう道を選ばなくてよかった。
 このボールが、道を作るから。
 ゴロゴロ転がる。
 そのまま雲に突っ込む。
 弾けた。痺れる。
 そうか。待っていた。
 僕は、両手をいっぱいに広げた。