1ルーム

色々な1ルームを作って、シリーズ投稿しています。

放ちながら掴む【坂口恭平を走り書く_2】

 僕は死者からの附箋を発見し、言葉にしたいというエネルギーを持つと、まずは体を動かしはじめる。勢いよく歩いたり、人とより多く会おうとしたりする。そして、機が熟すると台所へ向かい、妻の前でああでもない、こうでもないと振る舞いはじめる。体をひねる。壁に頭をぶつける。手を伸ばす。貧乏揺すりをする。
 そうこうしていると少しずつ、蛇口から水が出るように言葉が出てくる。しかし、それらの言葉も脈絡のないつながりで、聞いている妻はよく分からないという顔をする。それではいけないとまた体を動かし、よじり、雑巾を絞るように言葉を出そうとする。そうやって体を動かしていると、言葉が少しずつ一人立ちしてくるのだ。
 この一連の動きは、いつも僕に演劇の起源を感じさせる。

坂口恭平(2014) 『現実脱出論』(講談社) p.144


僕はリトルモアの営業部に電話をしてみました。初めて本を出すやつのくせに海外で本を売ろうとしていることを少し笑われましたが、仕方ありません。ジムがやる気満々なので。

坂口恭平 「生きのびるための事務 第10講 売人のように生きろ」https://note.com/kyoheisakaguchi/n/n150f24889f4d(23.10.19時点)


工夫の人生はバラ色である。工夫、工夫。工夫しまくって誰にも考えつかないような路上人生を送ってやるぞと、おれは意気揚々でニヤニヤ顔になっていた。

坂口恭平(2012)『隅田川エジソン』(幻冬舎) p.43

 

螺旋のように出てきている。頭の中だけでなく、周りと巻き込んでいる。自分と相手の接面が現れて、あちこちで採光している。

 

 

「ことは」を集めろ。落ち葉集めのように僕とアオは入り込んでいる。この遊びが僕は好きだ。僕はこのように金のかからん、零から自分でつくった、訳のわからん、でも自由の風を感じる遊びのことを「零遊」(ルビ:ゼロあそび)と呼んでいる。
 僕はおそらく狂っているのだろう。早く寝ればいいのだ。だから、もう寝る。

坂口恭平(2013)『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)p.40


 本気は病気になれば休ませないといけませんよ。会社も一応、病気になったら休んでいいと口では言ってます。しかし、実際は違います。僕は10年間、いのっちの電話をやっていて、死にたくなった人からの電話を受けているのですが、電話をしてくれる人の多くが、大人です。学校を卒業し、会社で働いている人たちです。彼らに僕は、死にたいのなら、まずは会社を休んで、ゆっくりした方がいいとアドバイスをしていました。しかし、彼らはみんな、会社を休むことができないと言うのです。だから、休むことができない学校みたいなものなんですね。
 それなのに、なぜ大人はみんな会社に入ろうとするんでしょうか。こんなに大変なのに。

「中学生のためのテストの段取り講座 その7 学校でお金の稼ぎ方を教えない理由」https://note.com/kyoheisakaguchi/n/n1914e7c0e7b0(23.10.19時点)

 

僕子宮に17日間くらい閉じこもったらしいんすよ。母親も多分出す気がなかったと思うんで、多分お互い同意した状態で、そのまま死産という道を選ぼうとしてるような感じっていうか。なんかそしたら最後多分ちょっと僕の感覚としては母親が謀反を起こして、暴れだす、なんか階段をなんかもうとにかく走り回って飛び降りたりしたらしくて。

『【書き起こし】特別対談「坂口恭平宮台真司」!(約6万字)』https://note.com/cotorino_torico/n/n84dea9e34186(23.10.19時点)

 

うずくまることは、渦くまるということ。チラチラと、弾けるのか吸い込むのか。その間の状態が、丸く丸く小さい円たちで結び、全体として浮動している。

【短話】双子の流れ星

空に青空が広がっていた。歩いている私。流れる河。浮いていた。小さな石ころが。降っていた。小さな結晶が。それは、私の涙か。

学校からの帰り道。今日も、悪口言っちゃったなって歩く。言葉はもう元に戻らないのに、頭で何度も再生して、抹消された記憶を捏造してみる。違う、現実じゃない。理想ばかりの現実。でも、今歩いているこの道こそ、理想ばっかりで。

河のせせらぎ。スカートの裾が隠れる草っぱ。足首をこしょばせ、イタズラする。お尻をついて、トゲトゲから向こう岸をみる。一匹の鳥。とっくに目があっていた。

瞼を下ろし、耳を傾けた。その道。後ろのチャリンコ。走っている。車の音。人の音。草も同じ。止まっている。それは私だった。私だけだった。

立ち上がる。空が近づいた。首は空を突き抜け流。その空は、たくさん輝いていた。お星様。涙は上に飛んで散らばっていく。手を伸ばす。かき集める。胸に抱く。それでも出ていく。もっと溢れていく。叫んでも叫んでも待ってくれない。私は泣き、身体中の水分がなくなるまでの間。

 

地上を見ていた。そこにしゃがみ込む人がいた。寂しそうに、河岸にいる人。そのまま、草の中に溶けていきそうな人。

それは私じゃない。でも、何かしてあげたいと思った。周りを見渡す。そうか、ここには星空があるじゃないか。彼女は呼びかける。さっきよりも優しい声で。広く、一つ一つに行き渡るように。

 

すっかり夜になっていた。うとうとしていた。帰ろう。もう戻れないんだよ。彼女は星空を見ない。わかっているから。見たら全部思い出しちゃうから。それでも、星は迫ってきた。

走り出した。バックを前後に振り。追いかけないで。追いかけないでよ。頬から涙。さっきより大粒の。

足元に落ちた。転んだ。バックが飛んで、教科書が出る。誰もいない。音だけの道。湿気が降り注ぐ。肩を叩かれた気がした。

仰向く。溺れた。優しく包まれた。

彼女は彼女と手をとって、ゆるりとダンスした。ステップを踏めなくても合わせてくれた。次第に慣れてきて、あちこちに飛べるようになった。

 

誰かが指さした。誰かも指さした。それは、同じ方向を指して交わった。流れ星。双子の流れ。それは、一度交わるも、互い違いに別方向へ飛んでいった。

 

次の日だった。行方不明のニュースが放送されたのは。

研究方針 【坂口恭平を走り書く_1】

この記事をお読みになってくださっている方は、坂口恭平さんのことをある程度ご存知なのだと思います。なので、坂口恭平さんがどんなことをしている方なのかは紹介しません。
なので、この記事のカッコ書きのところに書いてある「坂口恭平を走り書く」の意味を話してみようと思います。あんまり考えてないので、うまくいかないかもしれませんが、やってみたいのでやってみます。

そもそも僕には、研究欲があります。
ただ、この研究、という言葉の意味が、一般的な感じとはズレています、多分。
僕は、大学院に行っていました。論文を読んで整理したり、根拠をつけて主張するとか、そういった研究っぽいことをやっていました。でも、馴染まなかったんです。整理しようとすると、すぐぐちゃぐちゃになる。というか、全部くっついていて、分けても分けられないみたいな状態になっていく。頭の中には引き出しがあるといいますが、僕の場合、もうそのタンス自体が歪んでしまっているんです。なので、取手みたいなのを作れても、もう取り出せないんですね。まとめた瞬間、別のまとめとくっついてしまって、分かち難くなってしまう。なので、整理しても整理しても、整理したものを見るたびに、整理する。あれ、でもどんどんぐちゃぐちゃになっていく。反対に、綺麗に分けようと思いすぎると、めっちゃしんどいし、めっちゃつまんない。片付け下手な人です。(部屋はゴミ屋敷ほどじゃありません。)
そういう、整理ができないってこととか、あと、根拠を踏まえて主張するってことです。これもできない。
論文を書きます。論文を書くためには、言いたことがあります。そしてここでもうつまづきます。言いたいことはあるんです。書くときには。でも、書いていると別の言いたいことを発見してしまう。そしたら、どんどん言いたいことを並べていく形になるんです。それで、ひとまず書き終わったら、もう何を言っているかわからなくなる。今もその状態になりつつあるのですが(笑)、でも、そうやってどんどん変化していくのが楽しいのです。けれど、研究論文というのは、言いたいこと一つのために、論拠を並べ立てていくのが基本です。だから、僕が論文を書いてみて、授業で発表して、結局何が言いたいんって聞かれます。そしたらそれゃ、答えられないんです。答えるんですが、色々言いたいことを全て逐一言ってしまうか、なんとかその共通項を取り出して言うみたいな感じになります。なら良さそうに思えますが、その共通、というのも厄介で、意味不明になっちゃう。例えば、りんごは美味しい、りんごは甘い、りんごは赤いって、三つ言いたいことがある。でも一つって言われて、僕は全部が言いたいから、頑張って共通項を探すんですが、そこから出る一言は、「りんごはなだらか!」、みたいになってしまう。よくわからないです。でも、僕はこの一言で、さっきの三つを全部言えたと思ってしまう。でも、それが人に伝わらない。なので、僕は主張が苦手なのです。
主張をしようとすると、根拠から飛躍してしまう。根拠を集めるために整理しようとすると、どんどんぐちゃぐちゃになっていってしまう。整理と主張ができない。逆を言えば、整理と主張ができる人が、研究のできる人です。

そんな研究のできない僕が、それでも研究をしたいと思うのです。だから、僕が思う研究という言葉の意味は違うのです。ずれている。
研究は、気になるところから始まります。そしたら調べます。よく理解したいから自分の言葉にします。そうしていくと、なんかわかった感じが出てくる。そして、最後は飽きる。僕にとって研究って、こんなテキトーな感じです。
一般的な研究と比べると、気になるところ、という部分は同じだと思います。調べるのも同じ。自分の言葉にしていくのも大事でしょう。わかった感じもないといけない。なので違うのは、飽きるってことです。
研究者は、自分の研究テーマを見つけてしまうと、それを探求しなければいけないのです。コロコロ変えると、中途半端なやつだと思われてしまうから。ここです、ポイント。つまり、誰かに思われてしまう、ということが面倒なのです。論文は、論文誌に掲載されます。そのために、査読という他の研究者にチェックを受けます。だから信用できるのですが、この見られる、ということのために、なんだか始めたら一生やめちゃいけない、みたいな感覚になってしまう。僕なんか絶対無理です。興味がなくなったらもう見たくない。それでも取り組むなんて考えられません。しんどい。
というわけで、話がもう全然、違うふうになっていってしまっているんですけれど、もっと研究を、自分の言葉を発見する、というすごく個人的な営みとしてやっていきたい。これが言いたかったんです!(言えた!)。

いつになったら坂口恭平の話に入るんでしょう。そろそろです。そろそろ。
それで、僕は普段からメモばっかりしている人なのですが、思ったことを書きつけます。スマホなんですが。
そこには、外の景色とか、読んだ本とか、愚痴とかを書いたりしているんですけれど、そのメモを見返していくと、坂口恭平さんから影響を受けているということがビシビシある。
色々著作を読んだり、ラジオ聴いたり、音楽を聴いたりしていました。そして、その度になるほど〜っと思い、それを、どんどん自分の言葉に変換していったのですね。
でも、そうやって坂口さんの節々を言葉にしていっても、結局、僕にとって坂口恭平ってなんなのか、どんどんわからなくなっていったんです。それで、もっと知りたくなってきた。
そのためには、方法が必要です。これまでのように、ちょっと見聞きしたことをメモしていくのでは細かすぎ。もっと広く、坂口さんを捉えたい。そこで最近、ちょっと研究っぽくなる方法を思いついたのです。

それが、三つぐらい、テキストを引用して、それからう浮かぶイメージを書いていく。そしたら、書き損ねたイメージが絶対あるだろうから、それがなんなのかをまた引用して、同じことの繰り返し。
引用しているから、研究っぽくないでしょうか。さっきまで、研究とは自分の言葉を発見することだと言いましたが、ここで、引用という新しい要素が加わっています。
引用です。根拠じゃありません。根拠は主張とセットです。対して、僕がここでやろうとしているのは、引用です。引用とセットなのは、イメージです。このイメージについて、まだ僕は言語化できていないのですが、この連載をやっていくうちにわかってくると思います。

連載です。僕は、たった今明らかになった、自分の言葉と引用(とイメージ)という研究を始めようとしています。飽きたらすいません。
そして、その研究対象が、僕にとって不思議な存在である坂口恭平さんになります。

基本的には文章になったものをメインに進めていきたいと思います。三つぐらい引用して、イメージを言語化して、また引用、の繰り返し。多分、意味がわからないところも出てくるだろうし、それは書いている僕にとっても同じです。つまり、単なるメモと似たようなものになる可能性が高い。
メモって、走り書きって言ったりします。なので、僕がこれからすることは研究、と言いながらも、なんだかメモってるだけみたいな感じになるんでしょう。それで、タイトルに、「走り書く」と書きました。
ただ、「走り書く」と「走り書き」は違う気がしています。「走り書き」は、本当にテキトーに書いたメモで、意味がわからなかったりする。でも、「走り書く」というのは、リアルタイム感がある。
メモしている時のイメージを、なるべく生で伝えたい。そのための方法が、さっきの引用法かもしれないのです。
そうして、この記事を書こうとしている。やっぱり、誰かに見てもらいたいのです。でも、見られている、という縛りだけは受けたくない。
僕は、一緒に見たいのだと思います。家のテレビで映画を見ているみたいに、カットをつなぎ合わせて、間に感想を挟んで、のような。
だから僕はここで、研究を、個人的な営み以上のものにしていきたいとも考えているのです。

 

【お話】2023年10月17日

打ち込んできた。
避けれたかどうか分からない。
接触感はない。
過ぎていく。
みてももう遅い。
遠くに行ってしまった。
追いかけても仕方がない。
踏ん張る。
振り返る。
戻った。

 ***

歩いていた。
鳴った。
自分だ。
無視した。
どうにでもなれ。
気張る。
遠くなった。
向こうだ。
渡った。
合わせた。
呆れる。
向こう見ず。
振り向く。
来ていた。
来た。
迫る。
通る。
向かった。

 ***

長閑だった。
長い時間で。
難しい。
傾げた。
ピッポー、ピッポー。
ゾロゾロゾロゾロ。
流れ出る。
見飽きる。
そっぽ向く。
走って突っ込んで。
重くなって。
笑われて。
吹き出して。
吸い込まれて。
それでも笑って。
打ちつけた。
眩しい。
から。

 ***

ゆすった。
あたり。
巻き込み。
喉。
嗚咽。
滴る。
埃。
破れた。
服。
通気口。
排気口。
信号。
喉仏。

 ***

叩く。
項垂れ。
露の。
幻。
蟻の子。
払い。
鞭打ち。
背中。
首の。
耳に。
歯軋り。
通過線。
透明。
ガラス。
網切り。
飛花。

 ***

歩いていた。
膝曲げて。
腰下げて。
腕上げて。
首振って。
脇広げ。
耳大きく。
遮断機。
電車。
下敷き。
綻び。
喜び。
結び。
亡び。
残り火。
抜ける。

 ***

浮いて。
透けて。
無理に。
笑って。
飛んで。
散って。
見たことない。
色の。
露が。
咲いた。

 ***

線状に。
転がった。
溶け込んだ。
繭の。
糸が。
繊細で。
胞子。
散って。
くしゃみ。
過敏。
活けて。
刺さる。
窓辺。
走る。
夕べ。

 ***

暮れる。
温度。
なんで。
笑う。
膝つき。
落ちる。
肩が。
折れる。
長閑に。

 ***

そこまで。
通る。
何度。
向く。
いた。
清く。
拡がり。
叩く。
紡ぐ。
置いて。
からの。
遠き。
晴れ。

 ***

曲。
不自由。
狭く。
捻る。
顔。
破産。
群れ。
なびき。
わななき。
喜び。

 ***

共に。
苦しく。
垂れて。
落として。
センターに。
受ける。
ウケる。
かけた。
穿った
脱臼した。
鳥の声。

 ***

向こうみずな
鳥の声。
人が。
笑う。
明日の。
笑い。
落ち着く。
笑い。

 ***

台所の。
洞窟の。
フライパン。
窓ガラス。
霧雨。
落ちて。
振り向けば。
サイレン。
チトチト。
慣れ慣れしい。
戦争。
包丁。
流した。
お風呂。
湯気。
幸せ。
排水口。
喜び。

 ***

しまう。
みがく。
飽きる。
ほじくる。
伸ばす。
折れる。
首だけ。
温存。

 ***

揃う。
はねる。
黙る。
みてる。
ずっと。
君と。
背中。
さして。

 ***

ちった。
ぬけた。
あいた。
とけた。
のどか。
むりに。
もどり。
きた。
すぎた。
みた。
なくなった。
そうだ。
きた。
すぎた。
やった。
ぼくが。
やった。
あいつ。
むけた。
なおった。
きえた。
ないた。
だれが。
ぼくいがい。
ぜんいん。
しらない。
おしえない。
だれにも。
おしえない。
おかえし。
いみある。
いみない。
はんのう。
ようりょう。
およばず。
ばくはつ。
なのだ。
だって。
いうしかない。
いわれたから。
だれかの。
足首。
影。
足跡。
踵。
跡。
土。
滑り。
型。
ところ。
さ。

 ***

どけて。
なくて。
あれが。
むすんで。
つゆけし。
ひだね。
ありす。
よろす。
うれしき。
ないく。

 ***

せとり。
ことり。
きとり。
なとり。
むくみ。
へこみ。
そこに。
あたり。

 ***

ようやく降りた僕は、ずっと待っていた。
手をとって、乗り上げる。
水平線が流れていく。
明日までずっと。
昨日からずっと。
誰にも邪魔されない。
耳を貫通する儀式。

 ***

降りることはしない。
足がぐねる。
揃いに揃って。
ガラスが割れる。
それだけ。
血まみれ。
白い天井。
足繁く人。
取って。
しがみついた。
お墓の中で。

 ***

減らない。
足りない。
口いっぱい。
泣きやしない。
踏まれたって平気。
関節が縮んだって平気。
そこはもう僕じゃないから。
いつかお返ししてやるんだ。
土から手を出して。
掴んでやる。
足首だけ。
引っこ抜いてやる。
それでも人は靴を履く。
気づかずずっと靴を履く。
それを誰も笑わないだろうから。
僕は笑っていよう。
揺れとなって。
地震となって。
気づいてくれるまで。
音になって。

 ***

そーっと襖を開けた。
暗い暗い湿気の香り。
夕日が中にしまってあって。
夜中のちょっと秘密基地。
会議をした。
明日の朝日について。
太陽はどうもご立腹。
明日は洗濯日和。
お母さんに教えてやろう。
外に出ないほうがいい。
散歩しないほうがいい。
落ちてくるぞ。
雲いっぱいの青空が。

 ***

電柱に張り付いて五年。
電子が動いていた。
カメラをつけた。
再生を繰り返す。
ゴミ袋。
気持ちいい。
大したことない。
いつでも下はいる。
ギーギーギーギーうるせぇな。
早く飛んでけ。
俺だって。

 ***

車が止まる。
用がある。
東京駅まで。
逃げ込んだ。
改札口。
線路の上。
乗車中。
手すりにつかまって。
先頭に立ったつもり。
スマホを落とす。
線路の上。

 ***

夜景が綺麗だ。
落ちてしまいそう。
手をとって欲しい。
窓ガラスが割れる。
トンカチが回転して。
ラクションが鳴る。
うまいこといく。
110番。
落ちていく。
今、ビルの5階で、2階で…。

 ***

ずっとずっと下へ下へ。
熱いぞ下は。
溶けていた。
星空の上。
狼の。
鯨が。
乗せてって。

 ***

バクっと真っ暗。
出ると海。
潜ると土。
世界は回転。
どちらにどっち。
身長世界一。
寝転んで。
全ては手元に。
窓から落ちる。

 

あーあ。
修理しに行かなくちゃ。
ネットを探す。
空中で指を動かす。
あー、見つけた。
自転車を漕いで。
今日も向かう。
どこへ向かう。
スマホ探さなきゃ。

【短話】中華料理屋

油の揚がる音がする。カウンターの前に座っている私は、両隣が男性に挟まれてしまい、少々息苦しい。しかし、これから来る料理、待ちに待ったあの料理とご対面できるとなると、それも我慢できる。

ここは昔ながらの中華料理屋さんで、玄関を入ると床がベトってしてるし、入ったら煙がムアっと顔に当たり、前髪は結んでおかなくちゃならない。

テーブルは三つで、それぞれ四つの椅子、けれど一番奥のところは椅子三つ。そして、カウンター五席、という構成。

照明は丸い形をしたのが三つほど宙吊りになっていて、ハエとアブの中間みたいなやつが休憩している。

昼の少し前に入ったので、お客さんはそれほどでもなく、きっと常連さんだろう新聞紙を広げたおじさんが、餃子一つを皿に残し、飲み干したビールジョッキが置いてある。そこに水が運ばれる時、ちょうど入店した。

SNSで調べまくった通り、全体的に茶色い壁。メニューも貼ってあるが、値段が薄れて見えない。カウンターに置いてないメニューを探そうと思ったが、今回はやめにしよう。

ここのオススメはチャーハン。なのでチャーハン。初見者は大人しくオススメに従う。

注文をしようと、厨房を見る。が、声をかけられない。こういうニッチな店に行くのが趣味なのに、こういうことができない。どうにか気づいてくれ。眼を大きく開け、まっすぐ、店長の顔を見つめる。目が乾燥する。早く、見つけて。

こちらをみたかと思い、声を出そうとする。ドアが開いた。チャーハンと言って席に着く。

あー、なんか言われてしまった。言いに行い。便乗するみたいじゃない。言えない。このまま私、何も食べれないんじゃない。

お客さん。と声がした。注文だ。気づいてくれました、ありがとう。

チャーハンと答えた。はいよっと優しい返事。ありがとう。

ものはすぐ出来上がる。さすが中華。炎が舞い上がったらもう出てきた。蓮華がいい。チャーハンの裾に入り込んでいて、丸みを崩している。ちゃんとしなくっていいんだ、ざっとでいい、こういうの。

見た目はシンプルなチャーハン。お米はもちろんパラパラしているし、卵、ネギ、肉のようなものも入っている。さて、実食実食。

一口目は少量でいく。香りを楽しむためだ。多めにすくって揺り、ならす。そうしてお口でいただく。舌で受け止める。

ほわっと香ばしい。一粒が他の粒をいくつか受け取っていて、小さい美味しさの塊を食べているみたい。いや、今食べている。

二口目からはガッツリいく。ここからはスピード。味なんか考えない。バクバクいく。

一気に平らげてしまいました。ここでようやく、味を評価する。評価なんて偉そうな。

醤油の主張が強いかもしれないが、卵が大きくって、ふんわりした食感が和らげてくれる。入っているネギがに別の風味を導入し、ピリッと後引く味を残します。総じて言えば、おいしいっす。

まあこんな感じで、後でブログに書くとして。お客さんが混んできた。昼だもんな。おあいそ。

立ち上がり、足元に置いていたバックから鞄を取り出す。ん、鞄?

財布を取り出そうと思った。頭ではそう思った。しかし、手に持っているのは鞄だ。

さっき私は、鞄の中に手を入れようとおmったのに、今は鞄の取っ手を掴んでいる。

まあ…気にせず、鞄の中を見る。財布。財布。財布…

ない。

こんなことってあるのか。絶対家に忘れてきた。覚えてるもん、玄関に置きっぱの。

最悪だ。どうしよう。初めてなのに財布忘れちゃう初見さん。印象悪いよな、また行こうと思ったのになー。

厨房も忙しそう。お客さんがどんどん入ってきてる。とりあえず、邪魔になるからね。鞄を背負い、外を出た。

はぁー。それにしてもおいしかったなぁ。家じゃできないよな、あの味。ふふッと笑って、やっぱり食だよ、元気の源は、と、ごく当たり前のことを当たり前に思う。

歩いていると眠たくなって、ぼーっとする。近くにベンチでもないか。あーあった。

鞄を抱え、うとうとする。車の通る風が心地い。前髪ももう結ばなくっていいやと思い、外さなきゃって思って。

起きると、バスが到着していた。慌てて乗って、ホッとする。

さっきのベンチ。鞄が。鞄だ。置いてきてしまった。降りるか、降りたらお金払うよな。お金払うってことはお金ないと無理だよな。じゃあ次で降りるとか言えないじゃん。あー。

今することはー。前髪を解くことです。

そうやってこねくり回す。あのかばん、よかったのになー。まあ、私には不釣り合いだったのかもしれないけど。

景色が過ぎていく。知らない景色が見えてくる。私の記憶はどこへ運ばれていくのやら。あんまり遠くに行かないで。

戻ってきたいから。覚えておきたいから。

バスの窓を開けると、後ろの席のお客さんが咳き込みをしたので慌てて閉じる。

バスはずっと走って、私もずっと乗っていた。このバスに終点はあるのだろうか。ないと止まれないか。

そう思っているうちに到着。あーここ。

降りるとそこは、さっきの中華料理屋でした。

【短話】ふかい体験

とどのつまり、それって深いってことよ。
え?不快?
そうそう。だって、つい気になるでしょ。
まあ、気になるから不快なのかも。

 

横断歩道を渡っていく。
向かいにからは誰も来ない。

 

いやぁ。最近深い体験してないよ。
えー、まあしなくていいじゃない?
え、したくない?物足りないじゃん。
んー、したいかぁー。軽い刺激みたいな?

 

角を曲がる。
細い道を挟んで高くなる道路。

 

だってさ、慣れてきたなぁーって。
ん?
朝起きて、会社行って、夜寝てってさ。
うん。

 

道路の下を通る。
突き当たり斜め左に行けば商店街。

 

つまんないのよねー。
んー、そんな言うんだったら、今体験しちゃえば?
え?そんな簡単にできるの?
うん。

 

商店街入り口前。
遠近法みたくシャッター街

 

え、どうするの?

 

立ち止まり、いっぱいに叫んだ。
通りの先まで飛んでいく。

 

ね?不快になった?

 

シャッターが、一斉に開いた。

【短話】パイプの工事

地下のパイプを工事をしていると、地上の音がいろんな風に聞こえる。
ウォーウォー泣いているのは、人が歩いている音。
カーカーカラスの鳴き声みたいなのは、赤ちゃんの鳴き声。
クークー熊の寝息みたいなのは、電車が通り過ぎる音。

 

工事が終わり、マンホールから顔を出す。
どうも、こっちの方が穴だらけ。
でも、要請があるのは地下だけで。

 

お金がもらえないなら工事しない。
こっちだって生活がある。

 

至る所で漏れている。
それが、マンホールに入っていく。
それで、地下のパイプが破裂する。
ピリピリピ。また電話。